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熱帯アジアの環境変化と感染症

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地球研年報(業績一覧など)

R-04

プロジェクトリーダー

門司和彦 総合地球環境学研究所

研究プロジェクトについて

本プロジェクトは、熱帯モンスーンアジアの社会・生態系と健康・疾病プロフィールを「エコヘルス」として一体的・分野横断的に記載・分析してきました。ラオス・バングラデシュ・ベトナム・中国雲南などで、マラリアや肝吸虫などの風土病的感染症と、環境、人々の生活を調査し、エコヘルスが多様であることを明らかにしました。

 

何がどこまでわかったか

(1)ラオス研究:保健省・公衆衛生研究所、サワナケート県保健局と共同でラオス初の「地域人口健康調査システムHDSS」をソンコン郡とセポン郡に設立し、そこを拠点とした分野横断的研究を展開しました。タイ国境に近い平地水田地帯のソンコン郡では灌漑の発展と肝吸虫の関係を、ベトナム国境に近い山地焼畑地帯のセポン郡では森林とマラリアの関係をそれぞれ明らかにしました。風土病は生態系との関係が強く、医学的アプローチだけでは根絶が難しいことがわかりました(図1)。

図1 1960年代と2006年のラオス中南部・サワナケート県の土地被覆の変化
1962 に比べ、2006年の衛星画像をもとにした図は森林(緑)や疎林(黄緑)が減少し、水田など(黄)が増加している(東城文柄ほか、2012)。赤丸がタイ肝吸虫の調査地、青丸がマラリアの調査地を示す

(2)ベトナム研究:ベトナム・カンフーマラリア研究所、長崎大学などと協力し、サル由来のノーザイ・マラリアの研究を実施しました。森に生息するマラリア媒介蚊であるダイラス・ハマダラカの生態究明の重要性を明らかにしました。

(3)バングラデシュ研究:国際下痢症研究所、ロンドン大学、長崎大学と協力し、インド洋ダイポール現象による気候変動と下痢症の関係と、洪水の健康影響を研究しました。そのほか、フィラリアのモニタリングも実施しました。バングラデシュは気候変動の影響を受けやすいため、衛生状態を改善し、媒介昆虫個体数を減らし、脆弱性を軽減する活動を展開中です。

(4)中国研究:雲南健康と発展研究会などと協力し、少数民族地域での環境と健康のモニタリングを実施しました。それぞれの地域にさまざまな環境問題・健康問題が存在していることがわかりました。

私たちの考える地球環境学

エコヘルスを無視した地球環境学は存在しません。本プロジェクトでの経験から、エコヘルス研究の特徴を以下の6点に整理しました:(1)健康の基盤としての生態系に着目する、(2)健康と環境を一体として研究する、(3)個人ではなく集団の健康に焦点を当てる、(4)環境・健康の両者に関連する生業・生活に焦点を当てる、(5)短期的健康でなく長期的健康に焦点を当てる、(6)エコヘルスの多様性に着目する。

 

新たなつながり

20世紀には世界統一の健康目標に向かって努力していました。21世紀以降は、地域ごとに環境負荷を減らし、エコロジカルフットプリントを小さくしながら健康を増進させていくエコヘルスが求められます(図2)。「そのゴールは生態系と社会ごとに多様である」というのがプロジェクトの結論です。本プロジェクトによって4つの国にエコヘルスの共同研究プラットフォーム・研究主体・ネットワークができました。ラオスでは毎年の国際会議(計6回)、バングラデシュでは3回の国際会議、中国やベトナムでも人事交流が進みました。これらを使ってDIAS-GRENEei(データ統合・解析システム―グリーン・ネットワーク・オブ・エクセレンス・環境情報分野)などで継続的なエコヘルス研究とエコヘルス推進を熱帯モンスーンアジアで展開していく予定です。

図2 環境と健康の4分割

 

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