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東アジア内海の新石器化と現代化:景観の形成史

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H-04

プロジェクトリーダー

内山純蔵 総合地球環境学研究所

研究プロジェクトについて

本プロジェクト(略称:NEOMAP)では、現代の景観の歴史的背景を復元・理解しつつ、文化多様性と自然環境が両立する文化的景観のあり方について提言・発信を続けてきました。東アジア内海(日本海と東シナ海)を対象に、大きな変革が起こった新石器化と現代化の時期に注目し、目に見える風景だけでなく、世界観や価値観など人間文化を含めた広い意味での景観について、過去の動向をふまえ、将来の方向性を明らかにしてきました。

 

何がどこまでわかったか

日本海と東シナ海を、交流を通じ文化的背景の多くを共有する一体の海「東アジア内海」ととらえ、過去に生じた2つの景観の大きな変動期である「新石器化期」(農耕景観成立の時代)と「現代化期」(産業化した現代景観成立の時代)に注目して共同研究を進めました。その結果、次のような成果を挙げることができました。

 (1)新石器化・現代化とも、短期・突発のイベントではなく、長期の胎動段階を経た後に決定的な景観変動に至るプロセスであること、その結果以前とは大きく異なる世界観・価値観が生み出されたことなど、景観の変動期には普遍的な現象がみられます。

 (2)新石器化は定住生活とともに始まり、最終的に農耕中心の景観が定着した過程です。これにより、限られた栽培種や家畜に依存する生活が生まれ、人間と自然を明確に区別する世界観が登場しました。

 (3)現代化は地域間ネットワークと地域間分業の広がりとともに始まり、最終的に産業化と市場経済化によって現代景観が登場した過程です。これにより、市場経済に大きく依存する大量生産・消費に基づく生活が生まれ、人間が自然を管理・開発できるという価値観が登場しました。

 (4)景観の歴史的変動期はいずれも現代景観の文化的背景に大きな影響を与えています。未来を展望するために長期の視点から歴史を理解する姿勢が欠かせません。

 (5)自然環境を含めた景観の保護・マネジメントにあたり、東アジアでもEU 景観条約のような歴史・文化背景を考慮した地域枠組みの設定が急務です。東アジア内海は、その枠組みとなり得ます。同時に、日常生活に根ざした保全活動もきわめて重要です。

私たちの考える地球環境学

地球環境問題を含むあらゆる環境問題は、日常生活から始まります。日常生活こそ、人々の文化と自然との相互作用関係が統合的に行なわれる景観の舞台です。その理解のため、専門を超えた研究交流が欠かせません。NEOMAPでは、考古学、歴史学、地理学、民俗学、言語学、生物学、景観工学、環境倫理学などの分野から11か国60数名のメンバーが協力して活動してきました。それぞれの成果を共有・統合するため、専門別ではなく対象地域を共有する組織作り、共有概念を創出するための多くの議論、種類の違う歴史情報をデータベース化し、GIS分析を通じて共有するなどの工夫を行ない、景観の歴史ダイナミズムと将来の方向性について多くの成果を挙げてきました。

新たなつながり

環境問題における景観史の意義について

ヨーロッパ景観学会(PECRL)や国際人文地理学会(ICHG)など、国内外の各種学会やシンポジウムで成果を紹介してきたほか、一般専門書『東アジア内海文化圏の景観史と環境』(全3巻 2010-2012)などを出版し、世に問うてきました。

歴史的文化遺産の保全について

オランダ・ライデン大学で国際学会 “Inland Seas in aGlobal Perspective”(2012)を開催し、歴史的文化遺産の保全が環境保全にきわめて重要であること、交流を通じて歴史・文化的背景を共有してきた内海などの歴史的地域が景観と環境の保全政策の単位となるべきことなどを提言としてまとめました。

図 新石器化(上)と現代化(下)にみる景観変容のパターンと現代景観に与えたインパクト
図 新石器化(上)と現代化(下)にみる景観変容のパターンと現代景観に与えたインパクト

 

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