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環境変化とインダス文明

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H-03

プロジェクトリーダー

長田俊樹 総合地球環境学研究所

研究プロジェクトについて

インダス文明(紀元前2600年~1900年)は、インダス印章/文字、城塞、下水道施設などで知られており、その遺跡はインダス川流域だけではなく、インド亜大陸北西部に68万km2に分布しています。本プロジェクトは、環境変化を中心に、インダス文明が短期間で衰退した原因を解明し、長期的な環境変化が文明に及ぼす影響を明らかにすることによって、現代の地球環境問題の解決に資することをめざしました。

 

何がどこまでわかったか

インダス文明の衰退に影響を与えた環境変化について、

  1. もともとは大河だったガッガル=ハークラー川
      (ヴェーダ文献のサラスヴァティー川に相当)の流路変更
  2. グジャラート州の海岸沿いの海水準変動
  3. ネパール・ララ湖でのコアリングによる気候変動

以上3点を重点的に調査しました。その結果、インダス文明期に、

  1. ガッガル=ハークラー川は大河ではなかった
  2. グジャラート州の海岸沿いの海水準が2 メートル高かった
  3. 衰退時期には夏モンスーンによる雨が多かった

ことがわかりました。

これらの調査によって、インダス文明の衰退の原因は、インダス川下流域での洪水や海水準変動による海上交通への打撃など、多岐にわたることが明らかになりました。その結果、インダス川流域から東への大きな人口移動が起こり、文明の地域ネットワークの微妙なバランスが崩壊した、というのが本プロジェクトの研究から得られた結論です。

私たちの考える地球環境学

ジャレド・ダイアモンドが『文明崩壊』で提示したように、過去の文明から学ぶことは多くあります。インダス文明がみせる、地域の自然・社会の多様性と、それらの間のネットワークをとおしたゆるやかな統一は、まさに現代のインドを彷彿とさせます。このようなインドの伝統文化の連続性を考えることは、地球の未来を考えるうえで重要です。また、私たちが行なったコアリングは、インダス文明期だけではなく、南アジアのもっと古い年代もカバーしており、こうしたデータは、今後の地球規模の気候変動の研究に、大いに役に立つと確信しています。

新たなつながり

2012年7月にパリで行なわれた「南アジア考古学会」に参加して、プロジェクトの成果発表を行ないました。その際、プロジェクトの成果に対して、インダス文明研究の第一人者であるマーク・ジョナサン・ケノイヤー・ウィスコンシン大学教授から多大なる貢献をたたえる言葉を頂戴いたしました。本プロジェクトの研究成果をもとに、新たなプロジェクトを立ち上げるべく、現在模索中です。また、2011年3月にアメリカ地球物理学連合(AGU)のチャップマン会議に参加して研究成果を発表し、その会議のモノグラフが出版され、上記のガッガル=ハークラー川が大河でなかったことを証明した論文が掲載されました。

 

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