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熱帯泥炭地域社会再生に向けた国際的研究ハブの構築と未来の可能性に向けた地域将来像の提案

FS責任者

水野広祐 京都大学東南アジア研究所

主なメンバー

甲山 治 京都大学東南アジア研究所
岡本正明 京都大学東南アジア研究所
伊藤雅之 京都大学東南アジア研究所
鈴木 遥 京都大学総合地域研究ユニット
内藤大輔 国際林業研究センター
杉原 薫 政策大学院大学
佐藤百合 アジア経済研究所地域研究センター
PAGE, Susan レスター大学
SABIHAM, Supiandi ボゴール農科大学
GUNAWAN, Haris リアウ大学
SETIADI, Bambang インドネシア政府技術研究応用庁
PONIMAN, Aris インドネシア地理空間情報庁

研究プロジェクトについて

大規模な開発によって破壊され消失の危機に瀕している熱帯雨林のなかで、特に生態的に脆弱で炭素貯留量と貯水量が膨大である熱帯泥炭湿地にかかわる地球環境問題を扱います。本FS では、多様な熱帯泥炭地域の生態的・社会的な特性に対応した保全と利用の方策を、地域の人々と検討し実施することで、将来的な熱帯泥炭地域のあり方を提示することを目的としています。

なぜこの研究をするのか

東南アジアには、泥炭湿地林が主として海岸部に広く存在しています。この泥炭湿地林は、木材や葉などの有機物由来の土壌であり、酸性度が著しく高いなど特異な性質があります。泥炭湿地にはメランティなどの大木が生えていますが、これが倒れて泥炭湿地に没すると、水中であるため分解されることなく何千年も経過します。こうして大木や落ち葉が折り重なってできた泥炭層は時に10 メートルにも及び、魚、植物、動物の希少種の宝庫になっています。このような水にあふれた泥炭湿地林は農耕住居には向かず、人々はその周辺部に住み、漁、非木材林産物採集を行なってきました。

この泥炭湿地林が、過去30 年間に急速かつ大規模に開発されてきています。ティッシュペーパーやコピー用紙の材料となるアカシアの木や、洗剤、食用油、チョコレートなどの材料になるヤシ油を生産するためのアブラヤシがこの地に大規模に植林されました。

これら泥炭湿地林からプランテーションへの移り変わりの過程で、非常に深刻な環境の変化が引き起こされます。まず、温室効果ガスである二酸化炭素の排出です。アカシアもアブラヤシも冠水した泥炭湿地では育たないため、排水を行ない地下水位を下げます。すると、地中に堆積していた未分解の有機物が分解を始め、大量の二酸化炭素が空中に放出されます。それと同時に、排水により地表面の高さと周辺泥炭湿地の水位が下がってしまうため、広大な乾燥泥炭地を生み出しますが、これはたいへん燃えやすいという性格があります。ここでは消し忘れた煙草の吸い殻や野焼きがもととなり、大規模火災につながります。あるいは、アブラヤシ農園の除草などを目的とした火入れも、飛び火により周辺地に火災が生じます。この泥炭地火災は、深刻な煙害、ぜんそくの多発、飛行場閉鎖、一斉休校、そして膨大な炭素排出と地球温暖化をもたらしています。一度火災にあった土地が森林に戻ることはきわめて難しい状況です。

これからやりたいこと

このような深刻な問題に対して、本FS では、特にインドネシア・スマトラ島のリアウ州において、地域住民や、地元県林業局と協働で、これまで荒廃地化し放棄されてしまっている住民の私有乾燥泥炭地を再び湿地化し防火します。そこに、在来泥炭湿地樹種を住民の主導により植える試みを開始します。これらの樹種は市場でも良い価格がついており、その販売収入から地域住民の福祉が向上します。この試みをもとに、水文、育種、泥炭地の循環、住民社会の成り立ちを研究していきます。

さらに、ほかの地域でも、泥炭火災などの深刻な問題に対処するため、住民の意思決定に役立つ泥炭マップを作成し、泥炭地や泥炭社会の特性を明らかにしながら、地域の特性に合った泥炭修復の方策を検討します。どのような制度と組織のもとで、住民が泥炭修復の方策を自ら進んで積極的に行なうのかを研究し、未来ある泥炭地域社会の将来像を描いていきます。

写真1 深刻な泥炭火災と火から逃れる現地住民
写真1 深刻な泥炭火災と火から逃れる現地住民

写真2 荒廃泥炭地に植林した泥炭湿地在来樹木ジュルトゥンの木を囲む住民と調査チームメンバー
写真2 荒廃泥炭地に植林した泥炭湿地在来樹木ジュルトゥンの木を囲む住民と調査チームメンバー。ジュルトゥンの成長は早く、写真のジュルトゥンは植林後1 年半が経過したもの

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