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「自然の証券化」を理解する─歴史・メカニズム・自然と社会へのインパクト

FS責任者

生方 史数 岡山大学大学院環境生命科学研究科

主なメンバー

百村帝彦 九州大学熱帯農学研究センター
嶋村鉄也 愛媛大学農学部
内藤大輔 国際林業研究センター
三重野文晴 京都大学東南アジア研究所

研究プロジェクトについて

本FS では、環境金融市場の生成過程を、自然の商品化に連なる自然の「証券化」として歴史的に位置づけます。途上国を対象としたREDD プラス(森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減を推進する施策)の実施過程を先進国の排出権取引などと比較しながら、知識・技術・制度政策・インパクトという4 つの視点から分析し統合することで、自然の「証券化」への経緯とそのメカニズム、自然と社会へのインパクトを検証します。

なぜこの研究をするのか

リーマンショックやアベノミクスの例を挙げるまでもなく、現代の金融は世界経済を動かす大きな力となっています。しかも昨今、金融は経済発展だけでなく、さまざまな社会問題の解決にも重要な役割を果たすようになってきました。排出権取引やクレジットオフセットといった、金融の手法を用いて地球環境問題の解決を促そうとする動きもそのひとつで、これらはすでに先進国の一部で実行に移されています。そして現在、途上国においても、森林減少・劣化を抑制した分の温室効果ガス削減をクレジット化するREDD プラスという枠組みが国際的に議論され、本格的な始動に向けて準備が進んでいます。

これまで私たちは、東南アジアの自然や社会を這いずり回りながら、現地からみた開発と環境保全とのせめぎあいを研究してきました。そこで目の当たりにしてきたのは、遠い世界で決まっている事柄に、現地の自然や社会が翻弄されている状況でした。上に挙げたような国際的な動きは、そのような状況を打破し、開発と環境の新たなバランスを提示してくれるのでしょうか、それとも、現地の自然や社会をさらに翻弄させる新たな一因となり果ててしまうのでしょうか。このような疑問をメンバーが共有し、本FS を進めています。

これからやりたいこと

本FS では、先に挙げた国際的な動きを、自然を金融商品として扱う傾向、すなわち自然の「証券化」と位置づけ、人間と自然との関係性の歴史の文脈でとらえます。私たちは、自然を敬いかつ畏れながら暮らしてきましたが、近代化以降は自然を主に商品として扱うようになりました。「証券化」をそのような自然の商品化の新たな展開として位置づけたうえで、この傾向が生じる社会的・政治的なメカニズムや、「証券化」される自然そのものが存在する現地にもたらすさまざまなインパクトを明らかにしていくことが本FS のねらいです。具体的には、ラオス、カンボジア、インドネシアといった東南アジアのREDD プラス対象国と、先進国である日本の炭素市場を事例に、①知識、②技術、③制度政策という「証券化」を支える基盤と、④自然や社会へのインパクトという4 つの視点から、環境金融市場の形成過程を検証していきます(図)。本FS によって、自然と人間の関係性のあり方に関する歴史的理解と将来へのビジョンを深め、既存の環境対策におけるネガティブな側面をふまえた枠組み構築への努力を促し、これまで見過ごされてきた新たな方向性が見いだせたらと考えています。

図 研究グループの構成
図 研究グループの構成

写真 東南アジアの森林。森林減少・劣化によって毎年大量の炭素が放出されている(マレーシア・サラワク州 2008 年撮影)
写真 東南アジアの森林。森林減少・劣化によって毎年大量の炭素が放出されている(マレーシア・サラワク州 2008 年撮影)

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