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人間活動下の生態系ネットワークの崩壊と再生

地球研年報(業績一覧など)

D-04

プロジェクトリーダー

酒井章子 京都大学生態学研究センター

研究プロジェクトについて

現在、地球上のあらゆる生態系が人間活動により危機に瀕しています。従来の研究では直接的な影響だけが評価され、生態系ネットワークを介した生態系の劣化は十分に扱われていませんでした。私たちは、モンゴルでの草原劣化とボルネオの熱帯雨林減少にかかわる生態系ネットワークをモデルに、より望ましい生態系の維持への道筋をつけることをめざしました。

 

何がどこまでわかったか

モンゴルでは、2000年以上にわたって遊牧が行なわれてきました。遊牧は、降水量の変動によって植物の生産量が大きく変動するモンゴル草原の環境に適した牧畜システムです。本プロジェクトでは、近年顕著になってきた草原の劣化(被食後の回復力の低下)について調査を行ない、従来言われてきたようなカシミア生産のためのヤギの増加に加えて、畜産物の価格が高い首都周辺への家畜の集中と、家畜の過密化・土地の私有化などと関連した遊牧における移動量の低下が、重要な要因になっていることを明らかにしました。

ボルネオ島のマレーシア・サラワク州では、企業による森林伐採やプランテーションの拡大により、熱帯雨林が急速に減少しています。本プロジェクトでは、その変化がこれまで焼畑や狩猟、林産物の採集といった形で森林を利用してきた先住民の人々の暮らしを大きく変えていること、生物多様性にも直接的、間接的に大きな影響を与えていることを示しました。

モンゴルとサラワクの環境問題を引き起こす生態系ネットワークの構造を比べてみると、生態系利用における住民と企業の関係に、生態資源の性質に起因する重要な違いがあることがわかりました(図)。モンゴルでは、地元住民がまず草地を生態資源として使用し、その製品(主にカシミヤなどの畜産物)を企業に売ります。したがって、人々と企業は相互に依存しています。一方で、集中的な投資とその回収が可能なサラワクの森林の場合では、企業自身が生態資源の開発に直接携わっており、地元住民と企業とは同じ資源をめぐる競合関係にあります。このようなネットワークの構造の差異に応じて、問題解決に有効な政策も異なることが明らかになりました。

 

図 モンゴル草原とサラワク熱帯林の生態系ネットワークの重要な差異
図 モンゴル草原とサラワク熱帯林の生態系ネットワークの重要な差異

私たちの考える地球環境学

本プロジェクトでは、事例研究をもとに生態系や生態資源の特徴、付随する環境問題と生態系ネットワーク構造の共通性、異質性を整理し、社会・生態システムの理解から問題の解決へと結びつけることを試みました。現在起きている個別の問題を理解するだけでなく、ほかの問題にも広く適用しうる成果を得ることが、地球環境学の構築には重要だと考えています。

新たなつながり

本プロジェクトでは、いろいろな専門分野の研究者が共同で研究を行ないました。その成果を本やシンポジウムで発信することに加え、成果をそれぞれの学問分野に持ち帰り、優れた研究論文として発表していくことが、今後の地球環境「学」の発展には重要だと考えています。

写真1 モンゴル草原で植物を摂食するヒツジとヤギの群れ。ヒツジとヤギは家畜のなかでもっとも多く、合わせて約3000万頭が遊牧されている
写真2 先住民が行なう伝統的な焼畑のようす。伐採後に火入れをして肥料にし、主に陸稲を育てる

 

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