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人の生老病死と高所環境――「高地文明」における医学生理・生態・文化的適応

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地球研年報(業績一覧など)

D-03

プロジェクトリーダー

奥宮清人 総合地球環境学研究所

研究プロジェクトについて

地球規模で進行する高齢化と生活習慣病を「身体に刻み込まれた地球環境問題」として焦点を当てました。高所環境に対する人間の医学生理的適応と「高地文明」とも呼びうる生態・文化的適応を明らかにし、近年の生活様式の変化がいかに高所住民の生老病死におけるQuality of life(QOL)に影響を及ぼしているかを明らかにすることにより、地球環境問題の解決に向けた高所ならではのモデルや知恵を提示しました。

 

何がどこまでわかったか

国際関係、開発政策、市場経済化の影響で変容しつつある高所住民のライフスタイルと健康の関係を明らかにしました。農・牧外労働、高齢化、低酸素適応に潜む生活変化への脆弱性(トレードオフ)による生活習慣病の増加を示しました(図)。たとえば、チベット人は低いヘモグロビン濃度で適応できる遺伝子を多く獲得してきたことにより、若いときは慢性高山病や糖尿病には予防的ですが、加齢により多血症をともなう糖尿病への脆弱性が生じます。酸化ストレスの高値とライフスタイルの変化が促進する「低酸素適応遺伝子の老化にともなうトレードオフ仮説」を、「糖尿病アクセルモデル(低カロリーと低酸素への適応が生活変化による糖尿病増加を加速するモデル)」の背景として提唱しました。

 

私たちの考える地球環境学

地球規模で進行する高齢化とそれにともなう生活習慣病を「身体に刻み込まれた地球環境問題」ととらえます。高所環境では、低酸素への医学生理学的適応は続いていますが、文化的適応は今まさに変化しています。長年かけて培われてきた高地への適応と、近年の急激な生活様式の変化がどのように影響しあうのかを明らかにし、高地文明の未来可能性を「老人知(老人の経験知とそれをサポートする社会の知恵)」に学びながら、環境負荷の少ないライフスタイルや、高地の人々の幸せな老いと、より良いQOLを追求してきました。その結果を私たちのライフスタイルに逆照射し、中山間地の問題、地域のネットワークを生かした高齢者の生活習慣病、認知症、うつなどの予防に生かしていきます。

図 農・牧外労働、高齢化、低酸素適応のトレードオフによる、生活習慣病の増加
図 農・牧外労働、高齢化、低酸素適応のトレードオフによる、生活習慣病の増加(クリックで拡大)

新たなつながり

本プロジェクトの趣旨である「地域に即したヘルスケア・デザイン」が、ブータンの国民総幸福(Gross National Happiness)に合致し、2013年度からのブータン王国第11次5か年計画として進み始め、本プロジェクトメンバーが引き続き協力を続けます。成果出版として、『生老病死のエコロジー:チベット・ヒマラヤに生きる』、『(続)生老病死のエコロジー:ヒマラヤ・アンデスに生きる 身体、こころ、時間』、『高所と健康―低酸素適応と生活変化の相互作用―』、『神秘の大地、アルナチャル―アッサム・ヒマラヤの自然とチベット人の社会』、『アンデス・ヒマラヤ・モンゴル―家畜とともに生きる人びと』、『チベット仏教論理学・認識論の研究:全6巻』、『ラダーク豪雨災害報告書』を刊行し、さらに4編を出版予定です。また、ヒマラヤ学誌(8-14号)および国内外査読付雑誌に201論文を発表するとともに、4回の国際シンポジウム・ワークショップを開催しました。

写真1 アルナーチャル・ルブランの検診に集まってこられたブロッパ( 牧畜民)の人々
写真2 ラダーク・チャンタン高原の医学キャンプのようす

 

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