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都市の地下環境に残る人間活動の影響

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地球研年報(業績一覧など)

プロジェクトリーダー

谷口真人 総合地球環境学研究所

研究プロジェクトについて

アジアの都市で繰り返しおこる地盤沈下・地下水汚染・地下温暖化などの「地下環境問題」を、地域の自然許容量と都市の発展段階の観点から、「地上と地下」・「陸と海」の環境を統合理解することによって明らかにしました。そして「地下環境」を、地上の気候変動や人間活動に対する「適応・代替・回復」力と捉え、地下環境との賢明な付き合いかた・共存のありかたについての提言を試みました。

 

何がどこまで分かったか

アジアの7都市における過去百年の人間活動の影響が、「地下環境」にどの程度及んでいるかを明らかにすることができました。地上での人間活動による地下の水・物質・熱の撹拌は、現在、深さ百数十m~数百mに及んでおり、過去百年で、地下水循環速度は10倍以上速くなり、都市化によるヒートアイランドの影響を含めた地下への蓄熱は、温暖化による地下蓄熱の2~6倍に及ぶこと等が明らかになりました。

また、東京・大阪・バンコク・ジャカルタにおいては地下水詳細モデルを構築し、地下水涵養域の変動や、「陸―海」境界を跨ぐ水・物質収支の変化などを明らかにしました。さらに、地下水貯留量変動評価のための衛星GRACEデータのダウンスケール(チャオプラヤ流域)を行い、流域モデルとの比較を行いました。そして、GISをもとにしたデータベースの構築を行い、アジア7都市の3時代区分(1930年、 1970年、2000年)の土地利用図を0.5kmメッシュで完成させ、地上と地下の境界を跨ぐ水・熱・物質輸送量を評価しました。

これらを統合するために、自然許容量に関する指標群と、変化する社会・環境に関する指標群をもとに、地盤沈下、窒素汚染、重金属汚染、地下熱汚染に関する都市発展ステージモデルを設定しました。そして、後発の利益、過剰開発、自然許容量享受等にもとづく類型化を行い、将来の地下環境と社会のありかたに関する提言メニューを構築しました。その結果、地下の水量に関しては2つの「境界」を超えた管理を行うことで持続的な利用が可能であること、一方、地下の水質・熱に関しては、「負荷」は管理できるが「蓄積」の監視が必要であること等が明らかになりました。

 

地球環境学に対する貢献

「アジアの都市で繰り返しおこる地下環境問題は、地域の自然許容量・社会の適応力を理解せず、それを超えて利用したことが原因である」との仮説のもとプロジェクト研究を行った結果、地下環境(自然)のcapacity(貯留量・涵養量等)に関しては、ほぼ評価することができました。一方、社会のcapability(適応力)に関しては、国際社会の枠組みでの「後発の利益」などの国際知を共有するプラットフォームの枠組みを提示することで、地球環境学に貢献しました。また、持続的な地下環境の利用のためには、「地上と地下」、「陸と海」の2つの境界を跨いだ統合管理が必要であること、地下水を含む地下環境の共同管理(公水化含む)の必要性、都市の発展段階と地域のcapacity/capabilityに応じた適応の重要性などを指摘することで、地球環境学に貢献できました。

 

成果の発信

計5回の国際シンポジウム(第3回はCOP13のサイドイベント、第5回はユネスコ他共催)を通して、成果を広く国際社会へ発信するとともに、120編以上の査読付き論文の公表、本の出版(日本語3冊・英語2冊)を行いました。また一般から専門家までを対象に、重層構造をしたCD Book(日・英)を作成し、成果の公表を行いました。さらにプロジェクト成果をアジア地域のコミュニティに還元する目的から、計3回にわたるフィードバックセミナーを開催し、アジアの都市の水問題に関するコンソーシアムの基盤を作ることができました。このコンソーシアムは、プロジェクト終了後も対象国の国内だけでなく、それぞれの国をつなぐネットワークプラットフォームとして機能しています。

写真 アジアの都市の水管理に関するコンソーシアムの設立
アジアの都市の水管理に関するコンソーシアムの設立
各国内の異なるステークホルダーによるNational working groupを束ねるコンソーシアムを設立し、モニタリング、モデリング、政策策定を中心課題に、国際知の共有を図るプラットフォームを形成

 

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