研究プロジェクト方式

 

1. 循環領域プログラム

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地球環境問題を循環というキーワードで考えると、どのような課題設定が可能になるのでしょうか。ここでは、大きく2つの概念に分けて整理してみます。ひとつは、言うまでもなく地球表層の物質循環やエネルギーの収支です。この場合、物質には水や大気そのもの、およびそこに含まれる化学成分や生物、さらにより広い概念でみるならば、人間や、人間を取り巻くさまざまな社会経済活動にともなう商品なども含まれます。地球表層では基本的には太陽放射エネルギーや化石燃料エネルギーが形を変えながら物質の動きを引き起こしています。そのような物質の動きは、ある時空間スケールをとれば循環としてとらえることができますが、より小さなスケールでは、流れとして現れます。地球環境問題において問題になるのは、これら物質の循環が急激に変化すること、一見循環しているようにみえても、実際はもとに戻らない螺旋状の循環で予測が困難であること、そして、そのような変化に人間の文化、思想や行動が大きく関与していることにあります。

もうひとつの概念としては、地球環境問題を人間と自然系の相互作用の結果生じるものとしてみる場合、その相互作用環そのものを一種の循環ととらえるというものです。すなわち、人間社会における欲望や経済・産業・科学技術の発展の結果、人口の集中、エネルギー消費の増大や土地利用の変化が起こり、地球温暖化や水資源の枯渇、生物多様性の減少など、いわゆる自然環境の変化をもたらすことになります。その自然環境の変化は私たちの生活、文化、経済活動にフィードバックされ、人間社会に影響を及ぼします。そして、人間活動の変化は再び自然環境に影響を及ぼすことになるのです。このような一連の相互作用、フィードバックの過程も、ここでは、広い意味での地球環境問題における循環とみなすことが可能でしょう。

以上のような2つの概念のもとに、地球研の研究プロジェクトが個々に孤立したものではなく、領域プログラムそして地球研という研究機関のもとに有機的に結びついて成果が発信できるものと考えています。

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2. 多様性領域プログラム

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地球上には、数億年の長い年月をかけて形成されてきた生物多様性(遺伝子、種、生態系など)と、人類がここ数万年の間にさまざまな環境に適応してきた結果としての文化多様性(言語、生業複合、社会、制度など)が存在しています。文化多様性はそれぞれの地域に特有な生物多様性を資源や表象として利用することで成立し、私たちに身近な生物多様性もそれぞれの地域文化に基づいた人間活動によって維持されていることが明らかになりつつあります。

しかし、とりわけ前世紀から顕著となった全世界的な人間-自然関係の断絶あるいは崩壊のなかで、生物多様性とともに文化多様性がこれまでにない速度で喪失しつつあります。人間の福利に不可欠な生態系サービスを担う生物多様性が危機に瀕しているばかりか、これまで自然と協調的な「賢明な利用」を担ってきた文化多様性が世界中から喪失・駆逐されている状況は、生物多様性と文化多様性の相互依存関係を根本的に破壊し、地球環境問題をさらに深刻な状況へと押し進めるおそれがあります。

地球研では、地球環境問題において解明すべき実態として「人間と自然系の相互作用環」、追求すべき目標として「未来可能性」という2 つのキーワードを掲げています。そのなかで多様性領域プログラムは、多様な自然環境における人間の営みとその帰結の連鎖を明らかにするうえで、生物多様性ならびに文化多様性の形成と維持・回復メカニズム、およびその役割についての実態解明をめざすとともに、人間の福利に不可欠な生物多様性と文化多様性を未来世代に残していくための研究を進めています。

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3. 資源領域プログラム

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資源領域プログラムでは、資源の利用と保全をめぐるさまざまな地球環境問題の解明をめざしています。人間は生物資源と化石資源を利用し、人口を支持する力を増やしてきました。しかし、莫大なエネルギーを投入し、農地や牧草地が増え、都市が拡大していった分だけ、自然の森林や草地・湿地は減少し、その果たしてきた環境保全の働きは衰えてきました。森の奥や大海原まで開発を進めて、地球を「食いつぶす」と言われる「限界」を超えた過剰な資源利用は、人口増加や経済発展をもたらしながらも、化石燃料の消費による地球温暖化や、水・森林資源とかかわる砂漠化など、深刻な地球環境問題をも引き起こしてきたのです。ただ、この過剰な資源利用の問題は、人口増加や経済発展だけで説明できる簡単な構造ではなく、人間と資源、さらに人間と自然系の相互作用環がその根源にあります。世界の経済構造からみても、すべての人間が等しく資源を開発・利用し、そしてそれにともなう問題を等しく被ってきたのではありません。たとえば、一部の人々の「食」への過剰な欲望を充たしている背景には、その生産や加工、輸送にともなって、世界のどこかで別の人々の暮らしや環境に深刻な問題が起こっているのです。

資源領域プログラムでは、このような地域と地球規模の問題の構造への強いまなざしを保ちながら、さまざまな資源とその利用にかかわる問題に取り組んでいます。特に、人々の暮らしに直接にかかわる生物資源・化石資源を中心にして、生活や生産のための基盤を整備し、効率化させることと環境とのかかわりを課題とする研究プロジェクトを実施しています。

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4. 文明環境史領域プログラム

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文明環境史領域プログラムでは、「循環」「多様性」「資源」など、いわば本題ともいうべき地球環境問題を時間の軸から検討します。というのも、どんな問題(あるいは現象)にも歴史があるからです。言い尽くされた語ではありますが、「温故知新」の大切さを強調したいと思います。また地球研のミッションが、地球環境問題の解明と解決の道筋の提示にあることを考えると、文明環境史領域プログラムの使命は文明規模のタイムスケールから人間と自然系の相互作用環を解明し、未来可能性を考究することにあります。

文明環境史領域プログラムに加わっている研究プロジェクトには、「水資源変動負荷に対するオアシス地域の適応力評価とその歴史的変遷」(リーダー:中尾正義)、「農業が環境を破壊するとき──ユーラシア農耕史と環境」(リーダー:佐藤洋一郎)、「環境変化とインダス文明」(リーダー:長田俊樹)、「東アジア内海の新石器化と現代化:景観の形成史」(リーダー:内山純蔵)の4本があります。

これらが扱う時間のスケールやターゲット地域はさまざまですが、「Asian Green Belt」「Yellow Belt」という、水条件について対照的な2つの地域の環境史を扱っています。両地域は、一方は1万年近く曲がりなりにも持続的発展を遂げてきた地域、ほかはすでに破綻した地域とみられてきましたが、それは本当でしょうか。2つの地域における生産性や持続性の違いはどこにあるのでしょうか。未来可能性を考えるうえで不可欠な、こうした根本的な問いかけに答えていきたいと思います。

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5. 地球地域学領域プログラム

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地球地域学領域プログラムは、「循環」「多様性」「資源」などの側面から検討される地球環境問題を、地域(空間)スケールで突きあわせる枠組みです。

地球温暖化は、気候の変動や海面の上昇に加えて、動植物の生態や農業生産、海洋資源など、世界中に影響を与える典型的な地球環境問題です。しかし地域問題とも考えられる砂漠化や森林の消失、生物多様性の消失なども、地球環境問題として位置づけられてきました。多くの乾燥地域では、貯水池や灌漑施設などの建設によって、十分な水を供給するようにして、食料を安定して生産することに成功してきました。しかしながら、地域における水資源の配分という新たな問題を生み出してきたのです。加えて、経済のグローバル化にともなう食料生産様式の変化は、地域の水不足を深刻化させる結果も招いてきました。食料貿易は、生産地の水不足が輸出先の食料問題に直結します。情報のグローバル化によって、人間と自然系の相互作用環も越境し、地域の多様性が失われてきています。かくして、地域問題と思われる土地利用変化や砂漠化も地球環境問題となるのです。

いわゆる地球環境問題が現れるのは地球のそれぞれの地域ですが、その問題の理解や解決を含めての対応を、地域のなかだけで考えることはほとんど不可能な事態となっています。地球規模で動いている現象や世界各地で生じている問題が、各地域でどのように現れていて、一方で、地域での現象や営みが地球全体にどのように影響しているのかという、地球と地域のかかわりを解きほぐすのが地球地域学です。

地球地域学は、その問いの答えが何らかの形で地域のあり方に反映されるべきで、地域の環境問題を地球の環境問題と結合してとらえるなかでの統治論(ガバナンス論)でもあります。その中味は、地域における「人間と自然系の相互作用環」のダイナミクスに関する「知」と、それによって地域の問題をどのように解決して、未来につなげるのかという統治の「知」が基本となります。

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