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「温暖化するシベリアの自然と人」プロジェクトゼミ

日  時: 2012年5月30日(水)15:00~16:00
場  所: 研究室9 セミナースペース (矢印アクセス
※お越しになられましたら、受付にて研究室9プロジェクトゼミに来られた旨をお伝えください
発表者: 石下貴也(名古屋大学)
【概 要】
三内丸山遺跡は、暦年代で約5900年前に集落が成立し、人々が遺跡を放棄したのは約4200年前であると考えられる(辻,2006)。しかし、定量的な環境記録の復元はこれまでほとんどなされておらず、三内丸山遺跡衰退の要因は明らかとなっていない。
本研究では、遺跡から20km程度離れた陸奥湾の地点で採取された試料を用いて古環境解析を行う。これにより、三内丸山遺跡の衰退の要因を考察することを本研究の目的とする。なお、三内丸山遺跡が衰退した以降で、陸奥湾の有孔虫を用いた古環境の解析は、本研究が初めてのことである。
コア試料は2005年の4月にJAMSTEC所属の淡青丸のKT05-7次航海で採取された。ピストンコアラーで採取されたPC02は、コア長約8.5mで、大部分は貝化石を含む均質なシルト質粘土からなる。上層部はマルチプルコアラ―で採取したKT05-7 M2で、補っている。
三内丸山遺跡の衰退について調べるため、約4500年前~現在に至るまでのコアの底生有孔虫化石群集を解析した。KT05-7 PC02から3つの試料を、KT05-7 M2から4.4cmごとに試料を6つ抽出した。選んだ試料を処理し、実体顕微鏡を用いて試料中から有孔虫を拾い出し、分類と個体数のカウントを行った。
三内丸山遺跡成立期以前の比較対象として、すでに有孔虫の分析がなされている、図子(2008MS)のデータを使用した。
底生有孔虫が48種同定された。この中で産出頻度が5%以上の卓越種は13種であった。これらの卓越種を産出頻度の年代変化から、同じ傾向を示す5つの群集に分類した。その結果、三内丸山遺跡が衰退したとされる約4200年前の前後で底生有孔虫群集が大きく変化したことが明らかとなった。
種の特性をもとに、下記のⅠ~VIの群集に分類した。
群集 I :寒冷・寒流系種、群集 II:暖流系種、群集 III:内部浅海帯種(~30m)、群集 IV:中部浅海帯種(30~100m)、群集 V:汽水種、群集 VI:砂質有孔虫
遺跡が衰退したとされる約4200年前から約3800年前にかけて、個体密度が急激に減少しており、中部浅海帯種も同様の変化を示した。一方、寒冷・寒流系種は急激に増加しており、汽水種、内部浅海帯種についても同様の変化を示した。
約4200年前には海洋と陸上の指標とも三内丸山遺跡周辺が急に寒冷化を示し、寒冷化の程度はアルケノン表層水温で約2℃であった(川幡,2010)。個体密度の急激な減少と寒冷・寒流系種の急激な増加は、この分析結果と一致している。
一方、中部浅海帯種の急激な減少と内部浅海帯種の急激な増加は、縄文海進によって深くなっていた水深が、海退が進行することで水深が浅くなっていったためと考えられる。また、汽水種の増加は、海退が進むことで陸奥湾の外洋からの遮蔽性が強くなり、汽水性が増したことによるものだと考えられる。
気候の寒冷化によって、当時活発に行われていたとされるクリ栽培が不適になり収穫量が激減したこと、湾内の生物生産量が減少し漁獲量が低下したことが、三内丸山遺跡衰退の要因として考えられる。
【問合せ】
酒井 徹
(総合地球環境学研究所プロジェクト上級研究員)


総合地球環境学研究所
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