公開シンポジウム「大槌の過去、現在、未来を考える車座会議」 開催報告


東日本を襲ったM9.0の大地震は、その後各地を襲った津波とともに未曾有の被害をもたらした。すべてを失ったかのような虚脱感に襲われた人も多いだろう。しかし、あの大震災はほんとうに「すべて」を奪い去ったのであろうか。「過去」からつながる自然や歴史、人などの財産とともに、大震災が残していった教訓を拾い集め、「現在」から立ち直り、新しい「未来」を見つめていくべきではないだろうか。

東日本大震災を受けて、地球研では予備研究(IS)「巨大災害にどう対処するか――グローバル化時代のリスクガバナンス」(代表・窪田順平准教授)が始まった。これにあわせて、地球研と東京大学大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センターが主催し、岩手県大槌町が共催する「大槌の過去、現在、未来を考える車座会議」と題した公開シンポジウムを大槌町中央公民館で開催した。

研究者と行政、双方からの報告

シンポジウムは、研究者からの大槌町における調査・研究報告を主とする第1部、愛媛県西条市と山形県遊佐町におけるまちづくりの取組をおもに取り上げる第2部と、1時間半のパネルディスカッションで構成された。ディスカッションに多くの時間をとったのには理由がある。町の復興について町民自身が考え、意見を述べる場を作り、まちづくりへの積極的な参加を期待してのことだった。

第1部ではまず、秋道智彌地球研教授が大槌町との出会いを語った。続いて谷口真人地球研教授が大槌町の豊かな地下水について、森誠一岐阜経済大学教授が淡水型イトヨについて、それぞれこれまでの研究の成果と震災後の変化を報告した。 第2部では、愛媛県西条市の佐々木和乙氏と山形県遊佐町の菅原善子氏によるまちづくりの取組についての報告が続いた。西条市の伊藤宏太郎市長から大槌町へ励ましのメッセージも届けられた。最後は、中野孝教地球研教授。安定同位体を使った科学的手法で解明する各地の水のつながりについて報告した。

ディスカッションがさまざまな声を引き出した

ところで大槌町と西条市、遊佐町の共通点とは? それは豊かな湧水である。地形や気候は異なるものの、その豊かな湧水をきっかけに、人間文化研究機構の連携研究「人と水」のフィールドとして地球研を介してつながった。そのつながりは単なる研究フィールドとしての枠に留まらない。今回の震災によって甚大な被害を受けた大槌町に西条市から災害支援が行なわれるなど、「ひと」と「ひと」のつながりへと育ったのだ。この「つながり」は、続くパネルディスカッションにおいて重要なテーマの一つとなった。

パネルディスカッションには、碇川豊大槌町長と大竹二雄教授(東京大学大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センター長)にも加わっていただいた。冒頭、秋道教授より復興のキーワードは「誰にとって?」であり、ものごとの表裏をしっかり考えることが大事であるとの提言がなされた。大竹教授からは、地域復興にとって大事とされる三つの「もの」、つまり「わかもの」「ばかもの」「よそもの」が大槌町にはすでに揃っており、復興への道筋は明るいとのコメントがあった。また碇川町長は、復興計画の早期策定のためのプランや、大槌町が誇る各種の「つながり」に対する期待を熱く語り、会場からの意見にも熱心に耳を傾けた。ディスカッションの話題は、防潮堤のようなハード面での防災対策から、「災害の記憶」や「逃げる意識」といったソフト面での対策までに及んだ。さらに、司会の阿部健一地球研教授から「研究者に対して期待することは」との呼びかけに対して、「復興のために、なにをどうすべきか、私たちを導いてもらいたい」といった声が会場からあがった。

大槌には復興の遅れを取り戻す熱意がある

震災によって加藤宏暉前町長を亡くした大槌町の復興は「周回遅れ」の状態であると碇川町長は言う。実際、会場の周囲を見渡せばその感は否めない。しかし、町の人はもちろん、とても多くの「よそもの」たちが、災害に強くかつ住みやすい大槌町の一日も早い復興を期待し、またそのための活動に参画する意志を持っていることがわかった。そんな「よそもの」たちの熱い意志が、大槌町の人たちにとって新たな希望となってほしいと強く思う。

最後になりましたが、復興にむけて忙しいなかシンポジウムの運営を助けてくださった大槌町の職員の方がた、積極的な意見を次々と出して議論を盛り上げてくださったシンポジウム参加者の皆さま、そして大槌町の皆さまに、深く御礼申し上げます。

※この記事は地球研ニュースNo.34(P.11)にも掲載しております。

矢印 公開シンポジウム「大槌の過去、現在、未来を考える車座会議」 開催案内

grayline

シンポジウムの様子