第18回 資源・地球地域学プログラム合同研究会

日  時: 5月24日(火曜日)17:00-18:00
場  所:

総合地球環境学研究所講演室 (矢印アクセス

タイトル: 熱帯アジアの環境変化と感染症」プロジェクト(エコヘルスプロジェクト)進捗状況
内 容: ラオスで実施中の二つの研究の進捗と今後の見通しについての報告と討議
発表者: 蒋・神松・岩崎・西本

【要 旨】

「熱帯アジアの環境変化と感染症」プロジェクト(エコヘルスプロジェクト)は本研究4年目であり、現在まとめに向けて個別成果の統合を進めている。今度の報告では、エコヘルスプロジェクトがラオスでおこなってきた二つの研究の進捗と今後の見通しについて述べ、出席者のみなさんと討議したい。

一つは、低地水田稲作農村におけるタイ肝吸虫症の研究である。現在、中間宿主である巻貝と淡水魚類の生態と感染状況を調査中である。この調査により、水田の灌水時期や季節的な水位変動に伴う、河川と小規模水域の連結が巻貝から魚類への感染に重要であることがわかり、中間宿主の感染場所・時期を特定しつつある。また、地域住民の生活行動調査からは、多くの住民が野外で排便している実態が明らかになった。したがって、野外排便を通して寄生虫の卵が環境に拡散し、貝から魚を経て住民へと至る感染経路が成立するはずだが、実際には、この地域の住民の感染率は、近年急激に減少している。これらの観察結果は、地域環境や住民行動に近年何らかの変化が生じ、そのために寄生虫の生活環がどこかで切断された可能性を示唆している。私たちは、河川・灌漑整備にともなう、水環境の変化と生活のなかの季節性の変質に問題のカギがあると見て重点的に調査中である。このような生態史の復元には、衛星画像解析と長期人口追跡が不可欠である。

もう一つは、山地焼畑地域におけるマラリア対策と地域保健システムの構築に関するものである。プロジェクトの対象地域では、国際保健協力による対策が浸透するにつれ、かえってマラリア症例報告が増加している。ベトナム戦争時の爆弾投下や枯葉剤散布、また近年の商業伐採によってもたらされた森林の荒廃が、この地域におけるマラリアの風土病化に影響していると考えられる。現在、症例報告が多い地域の生態的社会的特性を明らかにするために、衛星画像を用いて土地被覆変化を分析するとともに、地域の生業生活変化に関する情報のデータベース化を進めている。最終的にこれらの成果をもとに、効果的なマラリア対策と医療資源配分を提案する。また、この地域では現在、商業植林が大規模に進展している。これにより、近い将来、住民の生業と健康は大きな転換を余儀なくされる。その衝撃を緩和する包括的な地域保健システムの構築が必要である。

エコヘルス研究は、地域社会が培ってきた、人と人、人と環境のつながりに組み込まれた健康像を明らかにし、その長所を生かした効果的な疾病対策を実現することを実践的な課題とする。エコヘルス概念は、こうした課題への取り組みを通して精緻化されるであろう。

【問合せ】
西本 太
(総合地球環境学研究所プロジェクト研究員)

総合地球環境学研究所
〒603-8047
京都市北区上賀茂本山457番地4
TEL:075-707-2443
FAX:075-707-2509