サラワクの森林開発をめぐる諸相

地球研の「人間活動下の生態系ネットワークの崩壊と再生」プロジェクトでは、サラワクを調査対象地域のひとつとして、森林生態系がこれまでどのような要因によって、どのような影響を受け、今後どうなっていくのかについての研究をおこなっています。本研究会では、これまでの森林開発、とくに商業伐採とプランテーション造成をめぐって政府や企業、あるいは地元の住民がどのような動きをしてきたのかを6人の方に発表していただきます。同時に、生態学者からの視点を述べてもらうことにより、人文社会系の研究と生態学の研究成果がうまく関連し合えないかを模索してみたいと考えています。

日  時: 2009年5月16日(土)  10:00−18:15
会  場: 総合地球環境学研究所 講演室 (アクセス
主  催: 地球研プロジェクト「生態系ネットワークの崩壊と再生」
【プログラム】
10:00-10:05 プロジェクトの概要(山村則男(総合地球環境学研究所))
10:05-10:15 本研究会の背景と狙い(市川昌広(高知大学))
10:15-11:00 Choy Yee Kong(慶応大):「Sarawak Corridor of Renewable Energy (SCORE) and Dam-induced Economic Development Strategy Revisited」
11:00-11:45 森下明子(京都大学):「サラワクの森林開発と政治家」
11:45-12:30 市川哲(立教大学):「サラワク華人系林業企業の活動とその
トランスナショナル化」
   
12:30-13:30 昼休み
   
13:30-14:15 藤田渡(甲南女子大学):「サラワクの『持続的森林管理』政策のゆくえー紛争解決から住民参加へ?」
14:15-15:00 加藤剛(住友林業):「ポスト京都議定書と森林資源問題」
15:00-15:45 石川登(京都大学):「歴史のなかのバイオマス社会 ― 弾性と位相転移」
   
15:45-16:00 休憩
   
16:00-16:45 酒井章子(総合地球環境学研究所):「サラワクにおける森林と生物多様性の喪失」
16:45-17:15 コメント:中静透(東北大学) 、内堀基光(放送大学)
17:15-18:15 総合討論
   
【発表要旨】
Choy Yee Kong
  (慶応大学):
「Sarawak Corridor of Renewable Energy (SCORE) and Dam-induced Economic Development Strategy Revisited」
マレーシア・サラワク州は、今後の経済成長を促進するため、サラワク再生可能エネルギー回廊という開発戦略を定めている。この経済成長の開発戦略は、経済成長を促進するため、経済電力集約型産業の育成に取り組んでいる。この目的を達成するために、州内における豊富な再生可能エネルギー源の開発を行い、特に水資源を利用する水力発電を行う計画が進行中である。この水力発電誘導開発方針は、一連の経済波及効果をもたらし、より良い経済成長につながると政府側は主張している。本稿ではこのような水力発電開発による経済成長の開発戦略は、どの程度持続可能かについて環境的な観点から分析する。
森下明子 (京都大学): サラワクの森林開発と政治家
マレーシアのサラワク州では森林開発の利権をめぐり、事業権の交付権限をもつ州大臣(大抵は州首相が兼任)、事業権の保有者(多くの場合、州首相および州政治家の親類縁者)、下請企業(多くは地元の華人企業)という3つのアクターが密接な政治・経済的関係を築いている。本発表では、これらの3アクターの関係が過去40年間にどのように変遷してきたかを分析し、州首相を頂点とするサラワクの中央集権的な利権構造を明らかにしたい。
市川哲  (立教大学): 「サラワク華人系林業企業の活動とそのトランスナショナル化」

サラワクにおける森林資源の開発は華人、特にシブ在住の福州系華人が中心的な役割を果たしてきた。森林資源の開発を大規模な企業活動により行い、国際的な市場とリンクさせて発展させてきたという点で、サラワクの華人コミュニティは半島部マレーシアの華人コミュニティとは性格を異にしてきた。シブの福州系華人たちはキリスト教を中心とする宗教活動と、林業を中心とする企業活動を軸としてコミュニティを形成し、現在ではサラワク各地にその活動の場を拡大し続けている。だが1980年代以降、サラワク域内における環境問題やコストの上昇等の要因により、これらサラワクの華人企業はマレーシア国外でも企業活動を行うようになり、それにともない、華人系従業員も海外に渡航し、赴任先でコミュニティを形成するようになった。本発表ではこのようなサラワク域内および域外における華人系林業企業の活動及び華人コミュニティの特徴について報告する。

藤田 渡 (甲南女子大学): 「サラワクの『持続的森林管理』政策のゆくえー紛争解決から住民参加へ?」

サラワクでは、特に2000年代に入り、MTCC森林認証の取得を軸にした「持続的森林管理」政策が導入された。しかし、小規模に実験的に行うだけでも、住民側、伐採会社側双方 に利害・思惑の違いがあり、スムースには進んでいない。本発表では、そうした構図を明らかにしつつ、少しずつではあるが「前進」する「持続的森林管理」の現況を報告する。

石川 登  (京都大学): 歴史のなかのバイオマス社会 ― 弾性と位相転移
サラワク州北部クムナ川流域では、合板生産のための伐採、アブラヤシ農園開発、そしてアカシア植林プロジェクトが進行中であるが、植民地化以前のブルネイ・スルタンの時代から森林産物交易の中心地となってきた。本発表では、河口と内陸を結ぶ300キロほどの流域社会の約130年の歴史の検討を通して、在地社会の弾性と位相転移について考えてみたい。
加藤 剛  (住友林業): 「ポスト京都議定書と森林資源問題」
2007年にバリで開催されたCOP13以降、ポスト京都議定書の主要なトピックとして、REDDが注目されている。当初、インドネシアを始め、主だった熱帯林国は積極的な姿勢を示したが、ここに来て先進国との間に微妙なズレが生じている。インドネシア政府、先進国、民間企業、それぞれの思惑と森林資源の将来について紹介する。
酒井章子
(総合地球環境学研究所):
「サラワクにおける森林と生物多様性の喪失」

サラワク熱帯林は森林伐採、プランテーション開発などによって、大きく変貌してきた。その変化は、生物多様性と生態系サービスを大きく低下させ、そこに住む人々の暮らしにも大きな影響をもたらしている。本発表では、生態学視点からサラワク熱帯林の変化を概観し、熱帯林の減少・劣化を軽減するために提案されている方策を紹介する。

【お問い合わせ先】
酒井  章子
総合地球環境学研究所 研究室5

〒603-8047 京都市北区上賀茂本山457番地4
Tel:075-707-2302 (or 077-549-8260)
Fax:075-707-2507
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