第46回 地球研市民セミナーが開催されました


今回の市民セミナーでは、昨年度末で終了した研究プロジェクト「環境変化とインダス文明」の成果を発表するため、プロジェクトリーダーの長田俊樹地球研教授と、コアメンバーとして古環境研究に従事された広島大学の前杢英明教授が講演しました。

まず前杢教授が「インダス文明と環境変化――消えたサラスワティーの謎」と題して、かつてインダス文明遺跡群に沿って流れ、現在は末無川となったサラスワティー川がインダス文明繁栄時には大河だったかについて発表されました。大河であったとされる場所の砂丘を調査し、年代測定を行なった結果、周辺の遺跡群でインダス文明が栄えていた時代には、川はすでに大河ではなかったことが報告されました。これは「すべての古代文明は大河のそばで栄えた」とする説を覆すもので、参加者からは驚きの声があがりました。

続いて長田教授は「インダスプロジェクトを終えて」と題し、日本の調査隊として初めて携わった二つの遺跡の発掘成果や、前杢教授らによる環境分析から見える文明像の考察をもとに、インダス文明をどのように理解すべきかを発表しました。インダス文明をエジプトやメソポタミアの古代文明の類推で捉えず、南アジアの現代社会との比較による理解が必要であり、また中央集権を裏づける根拠が乏しいことから、インダス文明は地方のゆるやかなネットワークからなっていたのではないかとの考察がなされました。この考察は「環境」と「文明」が人間社会にどのような影響を与えながらかかわってきたのかを考える一端となったのではないでしょうか。

今回のプロジェクトの成果から導き出されたインダス文明像は、今後の新しい発見やインダス文字の解読によって完全に覆されるかもしれません。ただ、そういった説をいろいろな人が考えることが重要であり、また学問の楽しみでもあると、最後に長田教授が締めくくりました。(編集室)

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写真左から、渡邉紹裕 地球研副所長挨拶、前杢英明 広島大学教授、長田俊樹 地球研教授


写真左から、質疑の様子、会場の様子