第37回 地球研市民セミナーが開催されました


今回の市民セミナーでは、「KYOTO地球環境の殿堂」第1回殿堂入り者である、真鍋淑郎氏(プリンストン大学大気海洋研究プログラム上級研究員)をお迎えし、地球温暖化と水、またご自身の研究人生についてご講演いただきました。

講演では、まず温暖化が起こる仕組みについての解説がありました。温室効果気体が増加したとき、放射平衡を保つために有効放射高度が高くなって地上付近の気温が上昇する、という説明は気象・気候学ではよく知られていますが、一般の方に完全に理解してもらうには時間が少し足りないようでした。

つづいて数値モデルによる温暖化予測方法とその実験結果についての詳しい解説がありました。一口に温暖化と言っても地域によってその様相は大きく異なり、北極域では海氷の融解などによって大きな気温上昇が予測される一方で、南極海ではほとんど上昇が予測されません。温暖化によって降水量は熱帯・温帯で多くなり、蒸発量は亜熱帯で多くなると予測されています。これを「資本主義では金持ちはどんどん金が増えるが、貧乏人は……」と例えたのが会場の笑いをさそいました。

河川流量はとくに温帯で顕著に増加し、大雨の頻度が高くなるために洪水が増えると予測されています。日本では積雪量は減少して雪解けが早くなると予測されています。また夏季の水不足が予想され、温暖化への適応策の一つとして農業用水の確保が重要となります。

後半は阿部健一教授との対談形式で、参加者からの質問に真鍋氏が答える形で進められました。二酸化炭素を増減したり、ヒマラヤ山脈を取りのぞいたり(!)といった、自由度の高い数値実験の醍醐味を楽しそうに語る一方で、「温暖化がエコシステムに及ぼす影響を評価するに足る情報を、我々(気象・気候学者)はまだ充分に提示できていない」と強く語るストイックな一面も見せておられたのが印象的でした。(濱田 篤)

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写真左から、真鍋淑郎 プリンストン大学大気海洋研究プログラム上級研究員、阿部健一 地球研教授


写真左から、対談の様子、会場の様子