第29回地球研市民セミナーが開催されました


第29回地球研市民セミナー「厳寒のシベリアに暮らす人々と温暖化」が11月21日、地球研で開かれ、地球研の井上元教授、東北大学東北アジア研究センターの高倉浩樹准教授による講演と、地球研の秋道智彌副所長を交えた3者のパネルディスカッションが行われました。

井上教授の講演では、シベリアでの温暖化について、自然のプロセスのみならず資源開発やソ連邦崩壊という大きな社会変化の影響を考慮すべきであること、パイプライン破損事故やメタンハイドレート開発が更なる脅威になり得ることが指摘されました。すでに顕在化している温暖化の影響が、融解した凍土から発見されたマンモスの牙などを用いて紹介され、今後融解深が大きくなり地表面の乾燥化が進んで森林が劣化する可能性と、凍土を考慮したモデルの発展の重要性が強調されました。

高倉准教授の講演では、シベリアに暮らす先住民族について、民族・言語的多様性の高さに比して生業様式が比較的類似していること、その中でのトナカイ牧畜の重要性が紹介されました。またレナ川中流域に多く居住するサハ人を例に、冬のごく限られた時期に屠畜や飲料氷採取を行う生業のあり方が温暖化に影響を受けやすいこと、近年拡大するレナ川の洪水被害により、牧草地が湿潤化して干草の確保が困難になっていることが指摘されました。

パネルディスカッションでは、シベリアでの資源開発が人々の暮らしに与える影響や環境影響評価が機能していないことが議論されました。会場からは、原子力発電所の廃熱や先住民族の保護政策に関する質問があり、廃熱より放射能汚染物質の廃棄が問題であること、ソ連邦崩壊後に保護政策が消滅したことが報告されました。

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写真左から、立本地球研所長の開会挨拶、井上 元・地球研教授、高倉浩樹・東北大学東北アジア研究センター・准教授


永久凍土出土のマンモスの体毛と牙(写真左)、司会・秋道地球研副所長を交えての議論の様子(写真中、写真右)