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第9回地球研市民セミナーが開催されました。

2005年12月2日、第9回地球研市民セミナーが開催され、森林生態学研究者の中静 透地球研教授が「生き物の豊かな森は持続的な社会に必要である」と題し、生物多様性を維持しつつ持続的に森林を活用する方法をテーマに講演を行いました。
以下はその要旨です。

「生き物の豊かな森は持続的な社会に必要である」

中静 透

 生き物の豊かな森とは、森林を構成する樹木の種類が多いというだけでなく、そこに生 息する動物や菌類の種類も豊富であることや、同じ種類の生き物でも、その遺伝的構成が 多様であることを含む。さらに、単一の森だけでなく、ある地域に分布する森の種類その ものが豊冨であることも生き物の豊富さに結びつく。こうした、森の生き物の豊富さと社 会の持続性の関係について考えてみたい。

 森林の減少や劣化はそれ自体が、大きな地球環境問題であるが、それが生き物の豊富さ を失わせる大きな原因にもなっている。原生林が減少することだけでなく、残った森林が 分断化されてしまっていること、資源量や生き物の多様性の低い劣化した森林が増えてい ること、木材生産を効率化するために人工的に植えた単純な森林が増えていることなどが 大きな問題である。さらに、かつて人間が持続的に利用してきた森林についても、伝統的 な利用方法が廃れてきたことが、生き物の豊富さには大きな影響を与え始めている。 持続的な社会とは、文字通り長い期間続く社会であることだけでなく、突然の災害や危 機に強く、急激な変化を吸収できる杜会をいう。また、短期的な利益ではなく、長期間の 利益を最大化するような資源の利用を行い、良好な環境条件を保つコストは低く抑えられ ているのが望ましい。

 森林の生き物が豊富である場合には、森林資源の生産力が高まるだけでなく、その安定 化やかく乱からの回復力や病害虫などに対する抵抗力の強い生態系ができることが多い。 このような利用方法が失われると、特定の病気や有害鳥獣の発生を招いたりして、コスト 増を招く場合もある。また、森林の生き物は、地域の文化やアイデンティティの形成に重 要な役割を果たしてきており、それらの文化が逆に資源の持続的利用を維持するメカニズ ムとして働いている場合もある。私たちは、生き物の豊冨さを保つよな森林利用が持続性 と強い関係があることを、もっと意識する必要がある。

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