「人間/動物 混成コミュニティー・パラダイム」(Lestel, 1995, 2004,2 006)のいくつかの側面と、野生動物に関する政策を練るうえでのその有用性を考察する。その中心をなす考えは次のようなものである。人間たちは、 意味、利害、感情を共有する人間と動物の混成コミュニティーのなかでいつも生きてきた。そのような能力はまさに人間らしさといえるものである。人間と動物の関係はゆえにそのような見方で考えられなければならない。一方、少なくともいくつかの動物種においては、もっている能力の大きな部分が潜在的なものであり、そのうちのいくつかだけが、その動物が遭遇した情況と機会にしたがって発達する。そのような動物種は、単にいくつかの能力によって特徴づけられるのではないく、系統学的、文化的、伝記的な歴史の絡み合ったものを通じて構成される動いている空間によって特徴づけられる。これらの動物は、みずからの素質capabilitiesのあるものを人間たちとの相互作用を通じて発達させる。片利共生動物や家畜動物だけでなく、たとえば南ケニアのサヴァンナのライオンのような野生動物についても同様である。演者は、そのような見方で、途上国における新しい野生動物政策を提案したい。人間に対して野生動物を守る(たとえば自然公園)のではなく、人間と動物が、自分たちがそのなかで生活する新しい形の混成コミュニティーを一緒に作り出す手助けをしたほうがよいのではないか。
ドミニク・レステルは主として哲学者として活動。2007年3月から6月まで、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の客員教授。フランスでは、エコール・ノルマル・シュペリユール・ド・パリの認知科学部門の准教授および国立自然史博物館の准教授。1986年にフランス高等社会科学研究院(認知心理学)にてPhDを取得。2006年に哲学教授資格(パリ大学)を取得。カリフォルニア大学、ボストン大学、マサチューセッツ工科大学にて研究員。2004年からシカゴ芸術学校(the School of the Art Institute of Chicago)の客員教授をつとめる。主な研究分野は、とくに人間と動物と機械に共有された生活についての哲学的人類学とエソロジーのエピステモロジーである。現在、南ケニアで、野生の危険な動物に関するマサイ戦士の「戦争のエピステモロジー」についてフィールド研究を行っている。人間と動物のコミュニケーションの哲学に関する著書多数。