今日、地球規模に拡大された食農システムは、工業的で多投入型の農業生産、複雑な加工過程、エネルギー浪費型の流通体系によって、土壌劣化や生物多様性の低下、温室効果ガスの排出など、地球環境に多様な悪影響を与えているだけでなく、システム自体の存続にも不安を投げかけています。栽培品種の多様性喪失や家族農業の減少などは、システムの脆弱性を高める要因となっています。特にアジアでは、生産と消費の一体的な変貌が、将来の地球環境や人びとの健康、食文化の行方を左右しつつあります。このような工業的食農システムの進展には、このシステムにおいて最終的な決定権を持つ、私たち消費者も深くかかわっています。食を私たちの日常生活のなかに近い存在として取り戻し、食が自然環境や社会環境とつながっていることを確認できるようなしくみづくりが求められています。ともに考え、試み、学ぶことをとおして、食と農にかかわる社会的実践の転換に向けた人びとのつながりと行動を創り出し、持続可能な食農システムの実現をめざします。
研究プロジェクトについて
私たちの生活に欠かせない食は、生産、加工、流通、小売、調理の過程を通じて、環境と深くかかわっています。しかし近年、消費と生産の距離は遠くなり、中間過程も複雑すぎて見えにくくなっています。本FSでは、持続可能な食農システムへの転換を図るため、消費場面に重点を置きつつ、アジア4か国(日本、中国、タイ、ブータン)を研究拠点に選び、住民参加や政策設計などのアクション・リサーチの手法を用いて、社会的実践に向けた新しいつながりや行動を創り出します。
なぜこの研究をするのか
これからやりたいこと
- 現状把握:食農システムを取り巻く状況
- ビジョン構築:持続可能な食農システム
- 未来シナリオ:食料供給圏モデルから
- 研究サイトでの働きかけと転換戦略
持続可能な食農システムへの転換に向けて、次の4つの知見を探究し統合することをめざします。
第一の課題は、現代の食農システムの構造と条件を理解し、「私たちが誰にどのように食べさせられているか」という問いに答えることです。研究ではさまざまなレベル(国~地域~市町村)で食料供給圏(foodshed)の地図化を試みます。また参加型GISを活用しつつ、消費者の食生活や消費行動を空間的に分析します。
未来のビジョンは目標であると同時に、人びとの行動を方向づける「物語」でもあります。研究では未来のビジョンを実現するために今何が必要かという発想で消費や生産をとらえ、食農システムにかかわる多様なアクターがともに考える場を創出します。特に生産面では、環境配慮型農業者への転換に向けた新しい道筋を見い出します。
シナリオの実現可能性や将来予測を評価するためには、正確なモデルが不可欠です。消費者調査や参加型GISから得られたデータを食料供給圏モデルとして統合し、どのような土地利用や人口規模、消費者行動シナリオが、政策の現実性やさらなる研究課題、教育や情報提供のニーズにつながるのかを示します。
私たちの日常において、食農システムはブラックボックスとなっています。そこで、1) 多様なアクターに働きかけて食をめぐる倫理的諸課題について議論し、ともに学ぶ機会を創ります。2) 市場流通における透明性を高めて市場の論理を見極め、地域の食農システムを評価し支えるようなツールを活用します(食品情報アプリの開発、地域独自のエコ表示など)。
メンバー
FS責任者
氏名 | 所属 |
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MCGREEVY, Steven R. | 総合地球環境学研究所 |
主なメンバー
氏名 | 所属 |
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秋津 元輝 | 京都大学大学院農学研究科 |
柴田 晃 | 立命館大学地域情報研究センター |
立川 雅司 | 茨城大学農学部 |
田村 典江 | 自然産業研究所 |
須藤 重人 | 農業環境技術研究所 |
谷口 吉光 | 秋田県立大学地域連携・研究推進センター |
稲葉 敦 | 工学院大学工学部 |
久野 秀二 | 京都大学大学院経済学研究科 |
星野 敏 | 京都大学大学院地球環境学堂 |
辻村 英之 | 京都大学大学院農学研究科 |
伊波 克典 | グローバル・フットプリント・ネットワーク |
吉田 好宏 | 京都府農林水産部食の安心・安全推進課 |
KOOHAFKAN, Abolghassem Parviz | World Agricultural Heritage Foundation |
COHEN, Maurie | New Jersey Institute of Technology |
TANAKA Keiko | Kentucky University |
AUGUSTIN-JEAN, Louis | The Hong Kong Polytechnic University |
JUSSAUME, Raymond | Michigan State University |