研究プロジェクトについて
土地所有自体を問い直し、複数世代、生活圏で安心して暮し続けられる人と土地のかかわり、すなわち生活圏レベルの居所保有の確実性のあり方を提案します。先住民の環境観に学びオルタナティブな地球環境対策を模索し始めたラテンアメリカを対象とし、土地所有の明確化されていないインフォーマル地区で、地元コミュニティと協働で物的な環境を改変するプロジェクトを戦略的に実践し、地球規模の課題であるスラムの自発的改善への道を示します。
なぜこの研究をするのか
途上国都市の人口の1/3が暮らすスラム(インフォーマル地区)の環境劣化は、今日のグローバル化した経済社会の構造から必然的に出現している地球規模の課題です。インフォーマル地区の住人は、土地を正規の手続きを経て取得していないため、いつ立退きを迫られるかわからない不安を抱え、その日暮らしにならざるをえません。居所保有の確実性tenure securityの欠如とよばれる問題です。これを解決しようと、土地所有権を付与する方向で対策がとられてきました。ところが、土地所有権の徹底は、私有財産としての土地が市場で取引きされることを促し、人と土地の関係を流動化させ、結果的に安心して暮し続けられる生活圏を脅かしている一面があります。
そもそも、人と土地との関係は、単一世代の個人が所有する権利として扱えるものなのでしょうか。そこで本研究は、複数世代、生活圏レベル、保有する責務の側面を考慮し、人と土地の関わりについて本源的な問いを発し、生活圏レベルで居所保有の確実性を高める提案をおこないます。
これからやりたいこと
写真1 土地を知るワークショップの様子(2017年10月)
斜面地インフォーマル地区カンテラ(サンマルティン・デ・ロスアンデス、アルゼンチン)
私たちは、具体的な地区・地域をフィールドに実践して示し、戦略的に地球規模の変化を起こす方法を考えています。すでに、ジャカルタ中心部の高密度化したスラムで、共用建物をコミュニティといっしょに自力建設する活動を通じて、建築実践の小さな成功体験が、インフォーマル地区に実際に変化を起こす近道であり、情報ネットワークが普及した今日、効果が明白ならグローバルに伝播しうるという手応えを得ています。
本FSが対象とするのは、ラテンアメリカです。ラテンアメリカでは近年、アンデス先住民の環境観に学び、人の権利に並ぶ「自然の権利」概念を提示するなどオルタナティブな地球環境対策を模索し始めています。具体的には、コロンビアのメデジンを拠点とするEAFIT 大学Urbam 都市環境研究所のA. Echeverri教授をパートナーとし、植民地化や紛争など地球規模で居所の確実性が脅かされてきた複数地域を実践フィールドの対象候補としています。
他方、実践に先立ち、現行法制度内のフォーマル地区とインフォーマル地区が、地球規模でみてどのように共在しているのか、マッピングによって状況を把握しようと考えています。世界の各都市において、居所保有が確実ではない土地の空間的分布にどのような共通性があり、地域別にどのような特性があるかを明らかにします。
さらには、アジアアフリカにおけるインフォーマル本位の自発的環境改善の動きとネットワークし、先進国でありながら欧米化以前の知恵が生き続けている日本の立ち位置を活かして、私たちが実践をもって示す生活圏レベルで居所保有の確実性を高めるモデルが、グローバルサウスで共有されていく未来を思い描いています。
メンバー
FS責任者
氏名 | 所属 |
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岡部 明子 | 東京大学大学院新領域創成科学研究科 |
主なメンバー
氏名 | 所属 |
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ECHEVERRI, Alejandro | EAFIT University, Urbam |
雨宮 知彦 | R/Urban Design Office |
福永 真弓 | 東京大学大学院新領域創成科学研究科 |
山田 協太 | 京都大学 東南アジア地域研究研究所 |
SAKAY, Claudia | 東京大学大学院新領域創成科学研究科 |
GOMEZ, Juliana | EAFIT University, Urbam |
AUN, Silvia | Neuquén Province, IPVU |