温室効果物質削減と大気浄化のコベネフィット戦略

~デリー近郊における農業活動からのSLCPs放出に対する社会との協働による緩和策研究~
  • FS1

研究プロジェクトについて

現在、インドの首都デリーでは大気汚染が極めて深刻ですが、デリー近郊の農耕地で稲や麦の収穫後に行なわれている藁の野焼きの影響が大きいのではないかと指摘されています。本研究では、デリー近郊で、数百人規模の市民の皆さんに簡易な装置を使って人体に有害な影響をもたらす小粒径(直径が2.5ミクロン以下)のPM2.5を測定してもらい、その健康影響を評価しながら、どうすれば農家生計を維持しつつPM2.5の放出量を削減できるのか、さまざまな方策について検討を行ないます。

なぜこの研究をするのか

現在、インドの首都デリーでは大気汚染が極めて深刻な社会問題になっています。全世界では年間700万人がPM2.5などの大気汚染により死亡しているとの報告もあります。大気汚染の原因は工業や車の排気ガスだけではありません。農業からも多くの大気汚染物質は発生します。デリーの場合は、近郊の農耕地で収穫後に行なわれる藁の野焼きによって大量のすすや有機炭素が発生し、人体に有害な影響をもたらすPM2.5が生成されていると考えられています。

野焼きによって発生するすすや二酸化炭素、水田耕作中に土中から放出されるメタンは温暖化物質でもあります。現在、深刻な地球温暖化が進行していますが、その原因は温室効果物質の増加です。中でも、大気中での寿命が二酸化炭素などの長寿命温室効果ガスに比べて比較的短い物質はSLCPs*と呼ばれていて、すすやメタン、オゾンが主要なものです。大気中での寿命が短いものを削減すると、削減した効果を早く得ることができますから温暖化を抑制するのに有効です。SLCPsは温室効果物質であると共に大気汚染物質でもありますから、SLCPsを削減することは、温暖化抑制と大気浄化を同時に実現する「コベネフィット戦略」なのです。温暖化問題も大気汚染問題も、一刻の猶予もない深刻な環境問題です。私たちはこの研究を通じて、地球規模の温暖化防止と共に、インドをはじめとする発展途上国の健康被害の防止に貢献したいと考えています。

*Short-Lived Climate Pollutants

何をどのように研究するのか

本研究では、デリー近郊の農村における藁の野焼きを減らし、PM2.5等の大気汚染物質の発生を減少させることを目標としています。そのためにまず、リモートセンシングと現地測定によって正確な現状把握を行ないます。ここで活躍するのが簡易型PM2.5測定装置です。これは手のひらサイズであるにもかかわらず、1千万円もする大型装置と同程度の信頼性があります。これを数百人規模の一般市民に、身につけてもらったり、家や学校に置いてもらったりしてPM2.5を測定します。これらのデータを活用して、市民の皆さんがどれだけのPM2.5に曝されているかを把握し、またどういうインセンティブがあれば藁の野焼きを減らすことができるのかを経済モデルを立てて検討します。藁を焼く代わりに、燻炭をつくる技術を普及させることも方策の一つとして検討します。住民の意識を変えるためにはその文化的背景や地域の歴史を知ることも重要です。

私達は、このように大気科学的な知見を、人文地理学や農学、経済学の研究者に提供し、分野の異なる研究者達が協力して研究を進めます。さらに地域の住民の皆さんとの協働で問題を解決してゆくためにはどうしたらよいか、デリー郊外の農村で予備研究に取り組んでいます。

写真1:手のひらサイズのPM2.5測定装置

写真1:手のひらサイズのPM2.5測定装置

写真2:デリーの北50kmにあるソーニーパット村での大気観測

写真2:デリーの北50kmにあるソーニーパット村での大気観測

メンバー

FS責任者

氏名所属
林田 佐智子奈良女子大学 教授

主なメンバー

氏名所属
村松加奈子奈良女子大学
浅田 晴久奈良女子大学
松見  豊名古屋大学
犬伏 和之千葉大学
日引  聡東北大学
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