地球上の熱帯雨林の多くが、不十分な管理のもとで今なお劣化・減少し続けています。残存する熱帯雨林を単に保護するだけでなく、持続させるために、そこから価値が生み出せることを実証していくことが重要になります。その実現には、熱帯雨林の存在によって影響を受ける地域住民の理解や協力、主体的な参加が不可欠ですが、これまでは熱帯雨林から得られる長期的な利益を地域側で十分認識できずにきたため、彼らの積極的な参加が得られてきませんでした。
森林伐採などで得られる金銭的利益は、短期的な経済効果は大きいものの、環境を劣化や破壊し、収奪的かつ非持続的なものとなります。一方で、非金銭的利益は、可視化しにくく、短期的な効果は小さいものの、文化の継承や人々の教育水準の向上、生態系サービスの長期的な享受など、さまざまな形で波及的な効果を生み出し、長期的には地域により大きな利益を生み出すことが考えられます。
東南アジアの熱帯雨林保護地域では、これまで先進国が主体となったさまざまなプロジェクトが実施され、既にかなりの知見の蓄積があります。しかし、その成果を学術分野以外へ拡張し、地域の長期的な利益の拡充に利用する具体的な設計ができていない状況でした。
本FSでは、これら知的資源の評価と社会システムへの組み込みを通して、社会の様々な階層や所属の関係者が、熱帯雨林が有する非金銭的利益の可能性を認識し、活用する仕組みの構築に取り組みます。そして、地域住民が主体となった持続的な熱帯雨林の保全と利用のための枠組みの設計をめざします。