プロジェクトの概要
 
研究の目的
 
 本プロジェクトではインダス文明の成立・展開・衰退を学際的なアプローチで解明していきます。とくに、都市の発展を支えたと考えられる、食料生産とメソポタミアなどとの交易ネットワークが、環境変化によってどのような影響をうけたかを調査研究します。
 インダス文明の社会・文化的環境は、直接的に発掘によって得られる物質文化と間接的にうけつがれてきた伝承文化から復元を行います。インダス文明をとりまく環境を理解するために、地質調査のほか、植物・動物考古学的分析やDNA分析、交易品の同位体分析、年代測定等を行います。
 研究体制としては、研究方法に合わせ、古環境研究グループ、物質文化研究グループ、伝承文化研究グループ、生業研究グループにわかれて行います〈図1〉。古環境研究グループでは、まずインダス文明を支えていた可能性が高い旧サラスヴァティー川の流路変化を明らかにする研究を行います。具体的には、衛星写真による地形判読、現地踏査などによって、調査地域の地形に関する広域的調査を行い、枯水した旧サラスヴァティー川の河道の復元、河道変化の要因、時期について解明する予定です。また、長期的環境変化に関する調査については、湖沼等でのコア試料、沿岸域に分布するサンゴ試料の採取・分析を行う予定です。
 物質文化研究グループは、インド人考古学者と共同でグジャラート州カッチ地方の遺跡発掘を行っています。都市の構造や出土品を詳細に比較検討することによって、インダス文明期の社会・文化を復元する予定です。伝承文化研究グループは、インダス文明の社会的・文化的な側面をあきらかにする目的でインド文献学者によるヴェーダ研究を行うほか、現在の南アジアの伝承文化については文化人類学者などの現地調査を通じて行います。また、生業研究グループは、考古遺跡から得られる遺存体と現在の動植物の生態から当時の生業を復元し、その環境変化との関連について考察します。
 
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図2: インダス文明遺跡の分布
図3: カーンメール遺跡のDEM
主要な成果と今後の課題
 
 過去2年間の発掘調査によって、カーンメール遺跡では遺跡の中心部を囲む一辺約120mの大規模な石積周壁が明らかにされています〈図3・4〉。また、紅玉髄や貝を用いた装身具の製作址の存在も確認されており、カッチ地方の工芸品生産・交易の中心地であった可能性があります〈図6〉。また、コムギ・オオムギ・コメなどの栽培植物、ウシ・スイギュウなどの家畜動物のデータも得られており〈図5〉、今後の分析によって遺跡内外での自然環境と人々の生活の関係が明らかになることが期待できます。今年度は、インドにおいては旧サラスヴァティー川沿いの地質調査と遺跡調査に着手します。また、パキスタンにおいてはパンジャーブ大学と共同で、インダス文明の遺跡の中でも重要遺跡と目されるガンヴェリワーラー遺跡の発掘を行う予定です。
図4: カーンメール遺跡での発掘調査風景
図5: カーンメール遺跡での植物遺存体の採取
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図6: カーンメール遺跡から出土した
凍石製マイクロビーズ
図1: プロジェクトの研究対象