「アジア域における過去20年間の排出量変動」
 大原利眞(地球環境フロンティア/国立環境研究所)、秋元肇、山地一代、顔暁元(地球環境フロンティア)、
 黒川純一(富士通エフアイピー)、堀井伸浩(日本貿易振興機構アジア経済研究所)

(1)はじめに アジア域における大気汚染物質の排出量は著しく増加している。この排出量変化を定量化するために、地球環境フロンティア研究センター (FRCGC)と地球研・大気人間プロジェクトは共同して、過去20年間(1980〜2000年)のアジア域における各種化学物質のエミッション・インベ ントリを構築した。本報では、その概要について報告する。
(2)方法論 FRCGCが構築した基準年(1995年と2000年)のエミッションインベントリをもとに、エネルギー使用量(IEAエネルギーバラン ス、国連エネルギー統計、中国能源統計など)等の各種統計量を使い20年間の排出量変化を内外挿推計した。対象とした発生源種類と化学物質は表1のとおり である。主要な人為発生源からの大気汚染物質をほぼ網羅している。
(3)推計結果 図1は対象地域におけるNOxとSO2排出量の経年変化を示す。また、表2は対象地域全域の5年ごとの物質別排出量とその変化率を示す。 アジア域における排出量は、1980〜2000
年の20年間で1.3倍(OC)〜2.5倍(NOx)に増加している。中国におけるNOx排出量の増加率は
更に大きく、20年間の増加率は3.1倍にも達する。しかし、中国のEC, OC, COは1996年以降、減少している(最近2年間ではやや増加)。この原因は、ECとOCについては家庭部門において、COについては産業・家庭部門にお いて、生物燃料・石炭の消費量が減少したためである。また、SO2排出量も1996年以降、石炭の消費減や低硫黄化のため、ほぼ一定で推移している。この ように、アジア、特に中国における大気汚染の排出構造は、近年、大きく変化している。なお、中国の排出量は、1996〜2000年の石炭消費量を最新情報 に基づき修正した結果、SO2についてはやや減少傾向であったものがほぼ横這い、NOxについては増加傾向がより大きくなり、NOx排出量の増加率は対流 圏観測衛星GOMEによるカラム濃度の経年増加率とおおよそ一致する。