「中国における二酸化炭素の観測とモデルシミュレーション」

中澤高清、青木周司、菅原敏、森本真司、湯潔、張東啓、石廣玉、
石戸谷重之、石澤みさ、佐伯田鶴、早坂忠裕

東アジア域における二酸化炭素(CO2)の放出源や吸収源に関する定量的な情報を得るために、我々は中国国内の沿岸域と内陸部に観測点を設け、2003年 3月からCO2濃度とその炭素同位体比(δ13C)の観測を継続している。これまでの2年弱の観測結果を見ると、沿岸部および内陸部ともにCO2濃度も δ13Cもきれいな季節変化が捕らえられており、特に中国北部の観測点の季節変化が大きく、我々が船舶を利用して西太平洋で測定している同じ緯度帯の CO2濃度やδ13Cに比べて2倍以上の振幅が観測されている。CO2濃度やδ13Cのこのような大きな季節変化は、中国北東部の陸上生物圏の活発な光合 成活動や呼吸作用を反映しているものと推定される。一方、中国内陸部(最深部)の砂漠地帯で観測されたCO2濃度やδ13Cにも、中国北東沿岸部とほぼ同 等な季節変化が観測された。この内陸部の観測点では特に冬期にCO2濃度が高く、δ13Cが極めて低くなっていることから、季節変化の原因は、化石燃料消 費によって放出されたCO2が冬期の地表付近に形成される気温の逆転層内に蓄積されることによって引き起こされるもの、すなわちローカルな人間活動による ものと推測される。各観測点で得られたCO2濃度とδ13Cの間にはほぼ線形な関係が見られている。季節変化を引き起こす原因を探るために、Miller and Tans(2003)によって提唱された次のような関係式を各観測点で得られたデータに適用した。

δobsCobs-δobsCbg = δs(Cobs-Cbg)  (1)

ここで、δとCはそれぞれδ13CとCO2濃度を表し、添字のobsとbgはそれぞれ測定値とバックグラウンド値を表す。また、δsは、それぞれの観測地 点でCO2の季節変化を引き起こしている原因の持つδ13Cを示している。それぞれの観測点で得られたδsは-28から-23‰の広い範囲にばらついてい た。一般に、δsは陸上生物圏と化石燃料消費による影響の双方に支配されており、両者のフラックスの大きさによって決まる値である。もし、中国で観測され たCO2濃度とδ13Cの季節変化が主に陸上生物圏によるものと仮定するならば、δsは陸上生物圏が大気とCO2を交換する際の同位体比を示すことにな る。観測データのうち、明らかに人間活動の影響が大きい中国内陸部の砂漠地帯のデータを除いたδsの平均値は-25.6 (±1.8) ‰となった。この値は西太平洋の船舶観測で得られた同じ緯度帯のδs(-27.3(±0.3) ‰)比べて高い値となっている。C4植物によって引き起こされる季節変化のδsはC3植物より高いこと、および中国にはとうもろこしなどのC4 植物が他の地域よりより北方まで広がっていることから、中国ではC4植物の影響が比較的強いことが本研究から裏付けられた。