もどる

ロシア科学アカデミー極東支部 太平洋地理研究所での会合(2004.10.8)

白岩孝行 記

 

出席者:成田英器(総合地球環境学研究所)、白岩孝行(低温研)、Alexander CHEREDNICHENKO (Chief Adviser, Department of International Programs and Projects, FEBRAS), Peter Ya. BAKLANOV (Academician, Director of Pacific Institute of Geography), Sergey S. GANZEI (Deputy director of Pacific Institute of Geography), Anatoli N. KACHUA (Pacific Institute of Geography)

途中から参加:Viktor V. ERMOSHIN (GIS), Sergey M. KRASNOPEYEV (GIS and Satellite Image Analyses), Andrey An. MURZIN (GIS)

 

10:15開始(通訳の女性がロシア語から英訳、英語は白岩が和訳)

 

 はじめにBAKLANOV所長から歓迎の挨拶が述べられ、本日の会議のスケジュールについて質問があった。続いて成田リーダーが、「アムール川流域は地球上で数少ない自然が保たれた地域であり、人類共通の財産という認識でアムール・オホーツクプロジェクトを進めたい」と述べた。引き続き、白岩が「最初にBAKLANOV所長から成田リーダーに送られた日本側の研究プロポーザルに対する返信を下にした大枠の議論を行い、その後、GISと土地利用研究の研究目標と技術的な問題についてPIGの専門家と意見交換をしたい」と発言した。これを受け、BAKLANOV所長が「それで結構である。前半の議論が終わった段階で、GISと土地利用の専門家を呼ぶことにする」と述べた。

白岩は、「このプロジェクトの目的は、アムール川流域から河川を通じてオホーツク海に運ばれる溶存鉄がオホーツク海の植物プランクトンの生産に与えるインパクトを評価すること、そして陸面の変化がこの溶存鉄のフラックスの変化にいかなる影響を与えるか評価することである。GISを用いた陸面状況・土地利用の変化の研究は、過去200年程度の期間の陸面の変化を定量化し、物質輸送を記述するモデルの初期条件として重要な価値を持っている。また、プロジェクトでは、土地利用の社会、経済、政治的な背景と将来予測も視野に入れている。我々の研究プロポーザルに対し、BAKLANOV所長から共同研究可能な領域と付け加えるべき研究課題についてお返事をいただいた。その返信を、日本側のプロジェクトメンバーで詳細に検討した結果、PIGとはGISを用いた土地利用変化の研究とその背景解析に限り、共同研究を実施するという決定をください。提案していただいた大気からの降下物と汚染物質のモニタリングについては、たいへん興味深い提案であるが、財政的な問題から実施は不可能である。よってこれは削除したので理解して欲しい」と発言した。これに対し、KACHUA氏から、「大気を通じた物質輸送研究は全て止めるのか?」という質問があった。これに対し白岩は、「全て止めるわけではない。ハバロフスクのHYDROMETの協力で、日本側の機材をカムチャツカ半島に設置し、日本側が解析する計画は生きている」と返答した。BAKLANOV所長からは、「日本側の提案したプロジェクトであるので、どれを選択し、どれを削除するか、日本側の決定を尊重する。GISの問題は我々研究所の専門であり、充分協力できよう。しかし、アムール川流域は、ロシア、中国、モンゴルにまたがっている。どの国がどの地域を分担するのか、国境を越えて技術的にどのようにGISを統合するのか、データをどのようにシェアするのか、どのような方で、またどの機関が最終のとりまとめをするのか、いろいろ難しい問題がある。プロジェクトの開始前に充分議論してほしい」との回答があった。白岩は、「我々の提案を受け入れていただき感謝する。GISの問題はご指摘の通り、事前の協議が大変重要と思う。ロシア側ではPIGと共同し、中国では長春地理農業生態学研究所を共同研究相手として計画している。ご存じのように張柏(Prof. Zhang Bai)教授のいる研究所である。アムール川のクルーズでは10日間、張教授といろいろ議論した。張教授の部下でGISの専門家が11月末にオーストラリアから帰国するので、その時期を見定めて長春を訪問してくるつもりである。その際、今日ロシア側と議論した内容を伝え、今後の3国共同研究について打ち合わせてくるつもりだ」と述べた。BAKLANOV所長からは、「中国の研究者を招くことは良いことだ。張柏教授とはこれまでも共同研究を行い、良い関係にある。日本側が間にたって共同作業を行えば、成功するであろう」とのコメントをいただいた。また、GANZEI副所長からは、「1115-22日(数日ずれる可能性あり)にかけて北京で会議があり、BAKLANOV所長と私が出かける。その帰りに長春に寄ることもできるかもしれない」とのコメントがあった。白岩は、「11月末というのは、GISの専門家のオーストラリアからの帰国を待つための日程であるので、まだ詳細な訪問日時は確定できない。できるだけ時間を合わせ、3者が長春で協議できるよう努力する」と発言した。

BAKLANOV所長の判断により、ここから3名のGIS専門家を招き、詳細な議論に移ることになった。3名はERMOSHIN (GIS), KRASNOPEYEV (GIS and Satellite Image Analyses), MURZIN (GIS)の各氏。GANZEI副所長は、「ではこれからGISに関する議論を開始したい。まず知りたいのは、日本側が必要とする縮尺である」と述べた。白岩は、「優先順位の高い順番に述べる。まず流域全体の水文物質FLUXモデルを作ることが計画されているので、250万分の1程度の情報が欲しい。ついで、本プロジェクトで重要視している三江平原全体、大興安嶺全体、アムール川下流部などを見ることのできる50万分の1の図を重要な地域に限り作成したい。そして最後に野外での実験地と対応するような10万分の1か、20万分の1程度の縮尺の情報が欲しい。このような詳細な地図は、ハバロフスク周辺などの変化の著しい地域や、実際に野外での地球化学的な観測を実施するスラビヤンカ周辺、小興安嶺の一部、大興安嶺の一部、三江平原の一部などが対象となろう」と回答した。ERMOSHIN氏から「詳細な縮尺としては、10万分の1の縮尺で情報を集めることは現実的ではない。20万分の1が妥当である」とのコメントがあった。KACHUA氏からは、「人為的改変の大きい地域としては、ハンカ湖周辺が重要である。この地域は過去にプロジェクトが行われたのでデータが豊富である。この地域には工業地帯、農業地帯が集中し、鉄の供給に関わるような鉱山も点状に分布する。取り上げる必要があるだろう」とのコメントをいただいた。白岩は、「貴重なコメント感謝する。今回のプロジェクトは、流域からの溶存鉄の供給が重要なテーマである。これまでの予察研究によれば、重要な流域は松花江やゼーヤ川が挙げられている。ウスリー川の重要性についてはまだ検討していないが、もしウスリー川が上記の視点から重要な流域と判断されれば、ハンカ湖周辺を取り上げることも考える」と回答した。

ついでGANZEI副所長は、「では次に日本側が必要とするGISのレイヤーについて訊ねる。どのような情報が必要か?」と訊ねた。白岩は、「地形、水系、地質、土壌、植生、土地利用が必要最低限の情報である」と回答した。KRASNOPEYEV氏から、「地形のレイヤーを作るためのDEMは、ロシア全域については30秒と15秒グリッドのものがロシアで手に入るものである。USGSGTOPO3030秒であるが、ロシアの30秒データのほうが修正が加えられている分、より正確だと思う。必要とあらば、日本のASTERのステレオ画像を用いて30mグリッドのDEMを作ることも可能であるが、これは時間がかかるであろう。コムソモルスク付近からウラジオストックに至るシホテアリン山地については、これまでのプロジェクトにより、20万分の1程度の縮尺でGISが既に完成している」とコメントした。

白岩は「以上のレイヤーはあるひとつの時間断面のものである。このプロジェクトは、人為的な影響が歴史的にどのように変わってきたのかを調べるのもひとつの興味なので、過去200年程度の間のタイムシリーズを作る必要がある。どのような時間間隔でGIS情報を収集することができるであろうか?」と訊ねた。GANZEI副所長は「均等な時間間隔で情報を集めることは難しい。それよりもイベントに着目するのが良かろう。1860-1900年、1900-1949年、1949-現在の3つの時代の情報を集めるのが現実的かつ意味がある」と回答した。これに対し白岩は「その案に賛成する。しかし、1990年以降の10年間は、中国経済の発展とロシア経済の低迷という意味で、土地利用変化にも大きな動きがあったはずである。1949-1990年、1990-現在というように全部で4区分として欲しい」と応答した。GANZEI副所長は「それは理にかなっているのでそうしよう。また、満州時代には日本に相当データの集積があるはずだ。氷見山教授が土地利用の情報を有しているだろう」と答えた。白岩は「そのとおりと思う。最近、我々のプロジェクトに農業経済学者が加わったが、彼は満州時代の開拓政策に興味をもっている。日本側からの貢献項目として考慮する」と述べた。

BAKLANOV所長から「今回のプロジェクトは日本を中心に中国とロシアが共同で作業することになる。GISについては両国の国策から種々の情報の公開が制限されており、簡単な作業ではない。日本側はどのようにアムール川流域でGISを統合しようと考えているのか」と問いかけがあった。白岩は「良い案があったら教えてほしいが、現在は次のように考えている。250万分の1の縮尺はDEMも完備されており、それほど詳細な情報が必要なわけでもなく、公開されている情報でかなりの作業が可能と推測する。従って、ロシアか中国のどちらかが担当するということにしたい。そうすれば、両国のGISの統合で悩む問題も解決できる。一方、50万分の1,20万分の1の図については、それぞれの国が担当したほうが良いと考える。具体的には大興安嶺、小興安嶺、三江平原は中国が担当し、ハバロフスク周辺、アムール川下流、ゼーヤ川流域などはロシアの担当とすればどうか」と回答した。これに対し、GANZEI副所長から「小縮尺のアムール川全流域はロシアが担当したい」との発言を得た。白岩は「その決定については、中国との協議が終了してから下したい」と述べた。ERMOSHIN氏から「もしそのような分担にすると、GIS全体としては、中国側の地域とロシア側の地域はリンクできなくなる。しかし、中国とロシアの既存のGISは異なるので、統合は難しい。現実的にはその線でいくのがよかろう」とのコメントがあった。

GANZEI副所長は「では次に具体的にロシア側が当面直面している問題を2点挙げある。まずは衛星データの不足である。1980-1994年にかけて取得されたLANDSATはロシア全域をほぼカバーしている。1999-2002年にかけて取得されたLANDSAT7は、まだアムール全域をカバーするに至っていない。日本側には衛星データの購入について是非協力してほしい。我々が希望するのはLANDSATであるが、ASTERでも構わない。広い範囲をカバーするLANNDSATのほうがどちらかと言えば望ましい」。白岩は「今回のプロジェクトで衛星データを購入することは計画している。ロシア側が必要な衛星データをリストアップし、優先順位をつけた上で日本に送って欲しい」と答えた。

GANZEI副所長は「第2の問題は、GISの地形レイヤーである。現在、100万分の150万分の1がベクターフォーマットでロシア全域をカバーしている。20万分の1はラスターフォーマットなので、これをベクターフォーマットに変換する必要がある。また、それぞれについて、中国と協議して事前に共通化をはからなければならない」と述べた。白岩は「了解した。11月の長春会議の議題としたい。確認を期すため、今回の議論をもとにロシア側が問題点と考える部分を文書化して欲しい。その上で中国と協議することにしよう」と述べた。KRASNOPEYEV氏から「特定の地域の地形レイヤーをベクター化するには、ASTERのステレオ画像でDEMを作成すれば良い」とのコメントがあった。

BAKLANOV所長は「最後にコメントしたい。アムール川流域のGISを三国共同で作成するにあたり、2つの点を強調したい。ひとつはBASEはひとつとすること、もうひとつはGISの作成は国際基準に即して行うこと、である。これには中国の同僚も同意するはずである。また、GISのひとつのレイヤーとして経済情報を追加することを提言する。これは私の専門である」とコメントした。白岩は「その提言と経済情報の追加を歓迎する」と答えた。

白岩が「この会議を終了する前に、研究契約の方法について議論しておきたい。昨日のFEBRASとの会議で、研究契約についてはそれぞれ個別の研究所と交わすことに決定した。FEBRASとは大枠を規定する契約を交わし、具体的な研究作業についてはハバロフスクのIWEPおよびPIGと契約する。(FEBRASの代表として会議に参加している)CHEREDNICHENKO教授、これでよろしいですね?」と発言した。CHEREDNICHENKO教授は「FEBRASは了解しています」と回答した。白岩は引き続き「PIG側はこれでよろしいですか」と訊ねた。BAKLANOV所長は「その契約方法を歓迎する」と回答した。白岩は「では研究契約に至るスケジュールについて説明します。ハバロフスクのIWEPとは既に専攻して議論を進めているので、これに倣って申します。まず、200412月末までに、PIGの分担する作業を文書化し、それぞれにかかる経費を計上してください。その上で、日本側と協議し、削除や追加を行いたいと考えます。20054月に最終的な契約を行いたいと考えています。ただし、ご存じのようにアムール・オホーツクプロジェクトは、多くの研究機関と共同研究を行うプロジェクトであり、ひとつの研究機関が使用できる金額は限られています。前回の回答のように5年間で70-80万ドルという予算を申請してもらうとプロジェクトが破綻してしまいます。このことを良くご理解ください」と述べた。GANZEI副所長は「了解した。年末までの日本側とやりとりしながら、計画を詰めたい」と回答した。

最後に成田リーダーから忙しい中貴重な時間を割いていただいたことに対し礼が述べられ、会議は終了した。

 

 

トップへ