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ロシア科学アカデミー極東支部での会合(2004.10.7)

白岩孝行 記

 

出席者:成田英器(総合地球環境学研究所)、白岩孝行(低温研)、Alexander I. KHANCHUK (Deputy Chairman, FEBRAS; Director of Far East Geological Institute), Oleg SHCHEKA (Assistant to Chairman, FEBRAS), Alexander CHEREDNICHENKO (Chief Adviser, Department of International Programs and Projects, FEBRAS), Nikolai I. IVASHCHENKO (Head of International Department, FEBRAS)

 

09:30開始(KHANCHUK副議長のロシア語を通訳のオリガが日本語訳、成田リーダーの日本語をオルガが露語訳)

 

 ロシア科学アカデミー極東支部(以下、FEBRAS)の議長であるValentine SERGIENKOが前夜急遽モスクワに出張となり、代理の副議長Alexander I. KHANCHUKを相手に交渉が始まる。はじめにKHANCHUK副議長があいさつし、SERGIENKO議長から交渉の全権を委任されたことを日本側に伝えた。FEBRASとしては、日本側から提案された「アムール・オホーツクプロジェクト」を歓迎する旨の発言があった。

 続いてリーダーの成田英器から、あいさつ、ならびにロシアの陸域を対象にした「アムールプロジェクト」に対応する形で、日本の「アムール・オホーツクプロジェクト」は陸域の研究を対象にFEBRASと共同研究を進めたい旨の発言があった。つづいて総合地球環境学研究所(以下RIHN)の設立経緯ならびに人間の問題を重視しているという理念の説明を行った。また、アムール川流域は地球上で数少ない自然が保たれた地域であり、人類共通の財産という認識でアムール・オホーツクプロジェクトを進めたいと述べた。そして最後に、FEBRASとはこれからも良い関係を継続したいと考えているとし、今回の日本側の訪問の目的はFEBRASならびに傘下の研究所との協定の結び方を議論するためと説明した。

 KHANCHUNK副議長がSERGIENKO議長のメモをなぞる形で議論が始まった。なお、議論開始直後、通訳のオルガの能力が正確な議論には充分でないことが発覚したため、以降の議論は英語を主体として展開し、適宜ロシア語および日本語への通訳を交えた。

 第一にKHANCHUNK副議長から、ロシアではロシア国内で集積されたサンプルや生データはそのままの形では国外に持ち出せないという法律があることが伝えられ、アムール・オホーツクプロジェクトではサンプルの分析やデータの解析はロシア国内の研究機関を通して行い、日本側へは分析データや解析後のデータを持っていって欲しい旨の発言があった。これに対し、白岩が、「ロシア側の基本的な方針は理解するが、ロシア国内で分析ないし解析が不可能なサンプルやデータは日本に持ち帰りたい意志がある」と発言した。これに対し、KHANCHUNK副議長は、「ロシア国内には多数の研究所がある。アムール・オホーツクプロジェクトで採取するサンプルやデータは、ハバロフスクに限らず、ウラジオストックなどの研究所も利用すれば、全てが分析可能なのではないか?」と述べた。白岩は、「サンプルの一部持ち帰りについては、共同研究相手であるInstitute of Water and Ecological Problems(以下IWEP)のVoronov所長も了解している」と述べた。するとKHANCHUNK副議長はVORONOV所長に電話すると言って中座し、5分ほどして戻るなり、「VORONOV所長と電話した結果、サンプルの持ち帰りについては結論を出していないそうだ」と発言をした。白岩が「ロシアの他機関での分析や解析を提案していただいたが、現在のところ、アムール・オホーツクプロジェクトでは、IWEPPacific Institute of Geography(以下PIG)以外にFEBRAS傘下の研究所と連携する計画はない」旨を伝えると、SHCHEKA教授から「ロシアの生データやサンプルの国外持ち出しは基本的に禁止されている方針を理解してほしい。どうしてもロシア国内で処理できないサンプルは、手続きを踏めば、ロシア国外の持ち出しも可能になる。この手続きはFEBRASが実行できる。しかし、この手続きは頻雑であり、また、持ち出しサンプルの分析・解析計画や、詳細な協定を結んでいない段階で可能性を探ることも難しい。この問題は将来の検討課題とさせて欲しい」との発言があったため、成田と白岩はこの議論については先送りすることに決定した。これにつづき、KHANCHUNK副議長から「これについては、協定を結ぶ傘下の研究所と良く議論して欲しい。必要があれば、別の研究所も紹介する」との発言があったため、白岩は「IWEPとは既にサンプルの取得、分析に関する詳細な議論を始めている。2004年末までには具体的なプランができあがる予定である。PIGとは明日から詳細な議論を開始する」と発言した。

 KHANCHUNK副議長からつぎの議題として、オホーツク海における海洋観測が挙げられた。副議長は以下の発言をした:「オホーツク海は種々の許可取得が困難で、FEBRAS以外にオホーツク海の海洋観測を実施できる機関はない。今回のプロジェクトでもFEBRAS傘下の研究所と共同でオホーツク海の観測を実施すべきである」。続いてSHCHEKA教授が「最近、中国の研究者がベーリング海でFar Eastern Hydrometeorological Research Institute (以下、FEHRI)と共同で海洋観測を実施しようとしたが、失敗した。結果的に我々に援助を求めてきた。海洋観測もFEBRASと共同で実施して欲しい」と発言した。これに対し、白岩は「FEBRASの立場は理解するが、我々の研究の出発点は、過去4年間に実施したオホーツク海における海洋観測の成果に基づくものであり、成功裏に終わったFEHRIとの関係を終えて、FEBRASと共同研究をはじめる理由が見つからない。アムール・オホーツクプロジェクトは、ひとつのプロジェクトであるが、陸域と海域の研究は個別に行われるものであり、海域は地域的にも方法論的にも独立した研究プロジェクトの色彩が強い。ロシアのアムールプロジェクトと共同で行うのは陸域の部分であって、この部分でFEBRASと共同するという我々の立場を理解して欲しい」と発言した。これに対し、SHCHEKA教授は、「それではそちらの立場を尊重する。ただし、以下のことは記憶しておいて欲しい。オホーツク海の海洋観測の許可には最低1年の時間がかかる。FEHRIと共同で観測を立ち上げた結果、仮に失敗することがあってもFEBRASは急に援助することができない。最近、中国の研究者がFEHRIとのベーリング海の観測に失敗した後、アメリカの研究者(名前を失念)が各国の研究機関に“FEBRASが中国のベーリング海での観測を助けないのはけしからん”という趣旨の文書を配布したことがあった。しかし、これはFEBRASが故意に邪魔をしたのではなく、上記の調査許可取得時間の問題があったためである。その後、私(SHCHEKA)が各機関にその旨を書いた趣旨の文書を配布したが、えらく迷惑な話であった」。これを受け、白岩は「海洋観測に関する成否の責任は我々にある。FEBRASに頼ることはないであろう」と発言した。

 以上をもって、正式会談の終了とし、KHANCHUK副議長が退席した。引き続き、残りのメンバーでいくつかの細かい点を議論した。

 

1.FEBRASおよび傘下の研究所との研究契約について

 白岩から、アムール・オホーツクプロジェクト(RIHN)とロシア側の各機関との研究契約は、ひとつにまとめてFEBRASと契約する形でなく、それぞれの研究機関と個別に契約する形にしたい旨、SHCHEKA教授に提案した。SHCHEKA教授は、ロシア科学アカデミーの規約として、一つ以上のアカデミー傘下の研究所が外国の研究機関と契約を交わす場合、アカデミーが関与する必要があることを述べたが、個別に契約することについては異論は出なかった。これを受けて、日本側は当面の陸面の研究契約をIWEPPIGFEBRAS3機関に限り行うことを提案した。SHCHEKA教授はこれに了解したが、研究契約締結に至る段階では、以下の2点に注意して欲しい旨、発言した。1)IWEPPIGとの間の研究契約文書を締結前にFEBRASが検閲すること。これは、上記2研究機関が研究契約を締結した後に、予算の不足が発覚し、それをFEBRASに訴えることを避けるためである。事前にFEBRASが検閲することで、必要な予算をもれなく盛り込むことができる。2)ロシアの会計年度の始まりが1月であるため、2005年の春に研究契約を交わした場合、200512月までの研究活動にはFEBRASからの予算は使用できない。20061月以降の研究活動については、2005年の6月頃までに計画がはっきりすれば、FEBRAS2006年度予算計画に盛り込むことが可能である。

 

2. 日本側からロシア側への研究資金の支払い方法

 研究契約の実施の際、実際にはどのような形でロシア側に支払いが可能であるか、成田リーダーからロシア側に問いかけた。SHCHEKA教授は、以下の3つがあるとした。1)必要な研究経費全部を一括して電信送信(Wire Transfer); 2)日本側から個別の研究者個人に直接送金; 3)物品購入などの場合は、ロシア側から日本側へインボイスを送る方法。

 

以上を議論した上、再度、白岩が次の発言をした:「今回の議論は、日本側が20044月に送った研究プロポーザルに対し、ロシア側が返答し、再度日本側が返答した経緯を受けての議論である。重要な問題として、1)海洋観測はFEBRASではなく、FEHRIと行うこと; 2)研究契約はFEBRASに一本化せず、個別の研究機関と行うこと、の2点を再度確認するが、それでよろしいか」。SHCHEKA教授は、「2点を了解した(Agree)」と述べた。

 

12:00終了

 

12:00-13:00 SHCHEKA教授のオフィスにて、成田・白岩・CHEREDNICHENKOが参加し、最近SHCHEKA教授がアラスカ大学の研究者(アラスカ大学学長、赤祖父IARC所長、Weller教授他)とともに行ったカムチャツカへの旅行の写真を拝見する。

 

14:30-16:00 FEBRASアシスタントのアンナさんのガイドで、水族館と潜水艦に観光

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